第五百四十六話 「人脈(ネットワーク)とは同じ会社に所属する人物の一覧ではなく、会社という器を何度壊されても必要な人間だけが別の器へ静かに流れ続けることで完成する「見えない組織」のことである」という話
さーーーって、どーすっかなぁ(´;ω;`)
【合同捜査本部】
~枯れた枝に巣喰う鳥たち(人脈のプロファイリング)~
早朝の合同捜査本部。
松本龍平は昨夜から一睡もしていなかった。
デスク中央のキーボードを一定のリズムで叩き続ける。
メインモニターには、二十年前に存在した物流会社の社員名簿が、
無数のデータとともに展開されていた。
龍平は静かに呟く。
「……会社は、完全に終わっています。」
法人登記。
資産。
土地。
建物。
銀行口座。
全てが綺麗に整理されていた。
差し押さえるものはない。
現在、その場所には別会社の社屋が建っている。
ここまでは想定通りだった。
ヴィクターが用意した「終わった事件」。
誰が見ても、
「ここで終わりだ」
と思えるほど綺麗に片付いている。
龍平は画面を見つめたまま言う。
「ですが……。」
指先が再び動き出した。
社員名。
戸籍。
住民票。
転職履歴。
税務情報。
死亡記録。
過去二十年。
一人ずつ。
淡々と。
機械のような精度で洗い直していく。
そこへ。
缶コーヒーを片手に拓海が歩いてきた。
「松本。」
「はい。」
「進んでるか。」
龍平は画面から目を離さない。
「会社は終わっています。」
「だろうな。」
「ですが……。」
龍平はモニターを拓海へ向けた。
赤い線が何本も伸びている。
港湾会社。
警備会社。
輸送会社。
倉庫管理。
中古車輸出。
会社は違う。
所在地も違う。
代表者も違う。
しかし。
「見てください。」
龍平は一つ一つ線をなぞる。
「社員だけが移動しています。」
「会社がなくなるたびに。」
「同じ人間が。」
「別の会社へ。」
拓海は腕を組み、しばらく画面を眺めた。
「……鳥みたいだな。」
「え?」
「巣だけ変えて飛んでく。」
龍平は少しだけ考えた。
そして静かに頷く。
「……確かに。」
「会社という器は死ぬ。」
「ですが、人だけは生き残り続けています。」
拓海は缶コーヒーを一口飲む。
「会社じゃなく。」
「人が本体ってことか。」
龍平は初めて小さく笑った。
「その可能性があります。」
【General Logistics・地下機密セクタ】
~ 管理者の資産~
巨大な地下オフィス。
壁一面のモニターには世界中へ散った人員配置が表示されている。
部下が報告した。
「管理者。」
「松本龍平は会社の調査を終了しました。」
「現在は人物調査へ移行しています。」
ヴィクターは資料を読んだまま答える。
「予定通りだ。」
「社員の移動履歴も整理されています。」
「問題ない。」
部下は続けた。
「調査方針を変更させたのは、世田谷署の佐伯拓海です。」
ヴィクターはページをめくる。
それだけだった。
「内容は。」
「『会社ではなく人を見ろ』という発言です。」
数秒。
静寂。
しかしヴィクターの表情は何一つ変わらない。
「人を追えば。」
静かな声だった。
「人へ辿り着く。」
「組織へは辿り着かない。」
部下は頷く。
「はい。」
ヴィクターは立ち上がり巨大モニターの前へ歩いた。
画面には数百人の名前。
その半数には、
【整理済】
残る者には現在の所属先。
住所。
役職。
全てが表示されている。
「会社は器だ。」
「人は資産だ。」
「必要な場所へ配置する。」
「不要になれば切る。」
「それだけだ。」
部下は静かに続けた。
「では松本龍平も。」
「この流れだけを追う、と。」
ヴィクターは短く答える。
「そうだ。」
「人間は。」
「綺麗な流れを見ると安心する。」
「流れを設計した者には気付かない。」
その声に迷いは一切なかった。
【合同捜査本部】
~ 綺麗すぎる数字~
「……おかしい。」
龍平の指が止まった。
拓海が振り向く。
「どうした。」
龍平は画面を見つめたまま言う。
「この人物です。」
「会社を三度変わっています。」
「三社とも倒産しています。」
拓海は肩をすくめる。
「運が悪かったんだろ。」
「それだけではありません。」
龍平は新しい画面を開く。
「倒産後。」
「半年。」
「八か月。」
「一年。」
「いずれの期間も収入記録がありません。」
拓海は画面を見る。
「失業保険は。」
「受給履歴なし。」
「生活保護。」
「ありません。」
「アルバイト。」
「記録なし。」
「税務申告。」
「ありません。」
龍平はゆっくり息を吐いた。
「普通なら生活できません。」
「ですが。」
「預金残高に、不自然な減少がありません。」
沈黙。
拓海は缶コーヒーを机へ置いた。
「……松本。」
「はい。」
「それ。」
「嫌な匂いするな。」
龍平は静かに頷く。
「はい。」
「数字としては成立しています。」
「ですが。」
「人間として成立していません。」
拓海はもう一度画面を見る。
「人は嘘をつく。」
「会社も嘘をつく。」
「でも。」
「生活だけは嘘つけねぇ。」
龍平はその言葉を聞き、再びキーボードへ向かった。
調べる対象は会社ではない。
金でもない。
その人間が、
二十年間、
誰と会い、
どこへ行き、
何を失い、
誰と繋がっていたのか。
その足跡だけを、一つずつ拾い始める。
誰もまだ気付いていなかった。
龍平は会社を追っているのではない。
拓海も組織を追っているのではない。
二人は知らず知らずのうちに、
「会社」という偽りの器ではなく、
その器を何度も持ち替えながら生き延びてきた人間そのものを追い始めていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




