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第五百四十三話 「傍観(バッファ)とは、親友の戦場へ踏み込むことではなく、必ず大型犬が盤面を壊すと確信し、魔王が極東へ飛ぶ翼だけを静かに整える現象のことである」という話

話が段々大詰めに。バカ回やりたい(´・ω・`)

【ウィルトシャー・ハミルトンホール】

~二十年前の未解決フォルダ~


霧の深いウィルトシャーの朝。

重厚な石造りのハミルトンホール。


最上階の当主執務室。

エドワードは机の上の書類へ視線を落としたまま、鳴り始めた専用回線を取る。


「私だ。」


『おはよう、ハミルトン。』


聞き慣れた声。


日本支社長、ジョージ・ラングレーだった。


『日本支社から追加報告。』


『General Logisticsについて、少し動きがあった。』


エドワードは静かに万年筆を置く。


「話せ。」


エドワードは送信されたファイルを開く。


一枚。

二枚。

三枚。


静かに読み進める。

部屋に響くカチッという音、

やがて最後のページまで読み終えると、ゆっくり閉じた。


「……そうか。」


それだけだった。

ジョージは肩を竦める。


『普通、その反応になる?』


『二十年前に情報部が追っていた相手がまた動き始めたんだよ?』


『驚かないの?』


エドワードは静かに万年筆を置く。


「驚く理由がない。」


「知っていたからだ。」


「先代が当主だった頃。」


「ハミルトン情報部も、この会社を追った。」


「物流。」


「港湾。」


「関連企業。」


「海外送金。」


「表から見えるものは、すべて洗った。」


「結果は。」


「何も出なかった。」


ジョージは苦笑する。


『"何も出なかった"じゃないだろ。』


『"出さなかった"んだ。』


「綺麗すぎた。」


「会社とは、人間が作るものだ。」


「人間は失敗する。」


「だから会社も歪む。」


「だが。」


「この会社には、その歪みすら存在しなかった。」


ジョージは少しだけ目を細める。


『俺も同じ感想だった。』


『綺麗すぎる。』


『だから逆に臭う。』


ジョージは資料を閉じる。


『今回も同じになると思う?』


「ハミルトン情報部でも届かなかった。」


「今度も証拠は出ない。」


『そう思う?』


エドワードは窓際へ歩いた。


霧の向こうに広がる広大な庭園。

その先を見つめたまま、小さく答える。


「今回は違う。」


『何が。』


「日本警察がいる。」


ジョージは吹き出した。


『いやいや。』


『当時の情報部でも無理だった相手だ。』


『極東の刑事二人で何とかなるとは思えないけど。』


エドワードは首を横へ振る。


「二人だからだ。」


『……。』


「一人は証拠を積み上げる。」


「一人は、人を見る。」


ジョージは笑みを消した。


『拓海。』


「ああ。」


エドワードは静かに続ける。


「龍平のような人間は、必ず証拠へ辿り着く。」


「だから管理者も証拠を与える。」


「証拠が揃えば、人は安心する。」


「事件は解決したと思う。」


「そこで終わる。」


少しだけ間を置く。


「だが。」


「あいつは終わらない。」


ジョージは苦笑した。


『また始まった。』


『親友評価1200%。』


エドワードは表情を変えない。


「評価ではない。」


「事実だ。」


「拓海は。」


「私ですら予測できない。」


「だから。」


「管理者も予測できない。」


【魔王の自制】


ジョージは椅子にもたれた。


『じゃあ。』


『こっちは?』


『どう動く。』


エドワードは即答した。


「動かない。」


「まだ?』


『ああ。』


「これは日本警察の事件だ。」


「私が今介入すれば。」


「あいつらが積み上げている違和感を濁らせる。」


「だから。」


「今は待つ。」


ジョージは小さく笑った。


『分かった。』


『では、日本側でも引き続き洗うよ。』


「ああ。」


『専用機は二十四時間待機。』


「必要になれば呼ぶ。」


『もちろん。』


【エンドログ】

~ 傍観者の覚悟~


通信が切れる。

静寂が戻る。


エドワードはもう一度だけGeneral Logisticsのファイルを開いた。


二十年前

届かなかった真実。


極東では親友がその入口へ立っている。


エドワードは静かにファイルを閉じた。


「……また。」


「お前たちか。」


低く呟く。


そして視線を落とした先には、一枚の運航予定表。


ハミルトン専用機。

常時待機。

指先がその紙をゆっくりと一番上へ置き直す。


命令は出さない。

介入もしない。


だが

その準備だけは、とうの昔に終えていた。


窓の外では、ウィルトシャーの霧がゆっくりと流れていく。


当主としては、動かない。


だが……


親友が「助けてくれ」と言ったその瞬間だけは。

世界中のどこであろうと、その翼は迷うことなく極東へ向かう。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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