第五十話 「英国の球技は、紳士の「忍耐」を試す」という話
僕クリケットまったくわかりません/(^o^)\
調べたんだけど理解できなかったのでこんな適当に・・・
四月下旬。
イースター休暇が終わり、学園には再び人の気配が戻ってきた。
あれほど静かだった廊下は、今は足音と話し声で満ちている。
寮の窓から見えるグラウンドも、久しぶりに色を取り戻したように見えた。
(……やっと、普通だ)
拓海は小さく息を吐いた。
ここ数日の“籠城戦”や“作戦会議”が、妙に遠い出来事のように感じられる。
あれはあれで現実だったはずなのに、こうして人のいる場所に立つと、
どこか夢のようにも思えた。
その隣で、エドワードがグラウンドを見渡している。
「……タクミ」
静かな声だった。
「今日は、クリケットだ」
「知ってる」
拓海は短く返す。
「で、正直に言っていいか」
「許可する」
「ルール、ほぼ分かってない」
一拍の間。
エドワードはわずかに頷いた。
「……問題ない」
「そうか?」
「本質は単純だ」
エドワードはゆっくりとグラウンドを指差す。
「打つ。走る。守る」
「うん」
「そして」
ほんのわずかに間を置いて、
「待つ」
「そこが一番長ぇんだよ」
試合が始まる。
ボウラーが助走をつけ、ボールを投げる。
乾いた音とともに、バットがそれを弾く。
その一連の流れは、確かに分かりやすかった。
「……ああ、今のは分かる」
拓海が小さく呟く。
「シンプルだな」
「当然だ」
エドワードが応じる。
「合理的に構成されている」
「そういうもんなのか?」
「そういうものだ」
しかし、その“分かる瞬間”は、長くは続かない。
数分が過ぎる。
同じような動きが繰り返される。
誰かが走り、誰かが投げ、誰かが止まり、そしてまた、動きが途切れる。
風が、グラウンドの上をゆっくりと流れていく。
「……なぁ、エド」
「何だ」
「これ、今何してる時間だ」
「待機だ」
「長くないか」
「必要な時間だ」
「そうか?」
「そうだ」
さらに時間が過ぎる。
観客のざわめきが、時折大きくなっては、また静まる。
試合は進んでいるはずなのに、体感としてはほとんど動いていない。
「……なぁ」
「何だ」
「これ、いつ終わるんだ」
エドワードは少しだけ考えた。
「……状況による」
「曖昧すぎるだろ」
「それが、この競技だ」
「不親切だな」
やがて、ボールが高く打ち上がる。
「あ」
拓海が反応する。
「来るぞ」
「来るな」
「来るだろ」
慌てて走る。
足元が少しもつれる。
視界の端で白い球が揺れる。
伸ばした手の先で―
わずかに、届かない。
ボールが芝の上を転がる。
息が上がる。
「……タクミ」
エドワードが言った。
「今のは」
ほんの少しだけ間を置いて、
「惜しかった」
「……お前、褒めることあるんだな」
「評価だ」
「言い方が固いんだよ」
試合は続く。
相変わらず長い。
だが、さっきよりも少しだけ、見えるものが増えた。
立ち位置。動き方。間合い。
完全には分からないが、何となく、流れのようなものは掴めてくる。
「……タクミ」
「ん?」
「お前は適応している」
「そうか?」
「ああ」
一拍。
「強度が上がっている」
「それやめろ」
試合が終わる。
歓声が上がり、選手たちが散っていく。
だが、拓海には、どちらが勝ったのかがいまいち分からなかった。
「……で、勝ったのか?」
「勝った」
「ほんとか?」
「おそらくな」
「お前も分かってねぇじゃねぇか」
帰り道、グラウンドから離れ、寮へと向かう。
人の声が少しずつ遠ざかり、風の音が戻ってくる。
「……でも」
拓海が、ぽつりと呟く。
「長かったけど」
一拍。
「悪くなかったな」
エドが、わずかに視線を向ける。
「……そうか」
「ああ」
「理解できたか」
「半分くらい」
「十分だ」
「残りは?」
「次回だ」
「えぇ…まだやるのかよ」
しばらく歩く。
沈黙が続く。
しかし、それは重くはなかった。
「……タクミ」
「何だ」
「次は試験だ」
現実が戻る。
「……急に重くなるな」
「必要な工程だ」
「逃げたいな」
「無理だ」
「知ってる」
春の風が、静かに吹き抜けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




