幕間 「見取り図の構築は、パズルの解析(デコード)だ」という話
エドワードもジョージも何がしたいんだw
四月。イースター休暇、深夜。
静まり返った寮。
廊下の中央。
相変わらずのテント拠点。
その内部では……
明らかに一線を越えた作業が、粛々と進行していた。
タブレットの画面。
そこに並ぶ、数百、いや数千枚の画像。
写真。動画。切り抜き。拡大図。
「……ハミルトン様」
ジョージが、低く報告する。
「サエキ家の立体再構築(3Dモデリング)」
一拍。
「誤差5%以内で、完了しました」
「……見せろ」
エドワードが即座に応じる。
画面が切り替わる。
そこに現れたのは……
「……は?!」
拓海が、ゴミを捨てに来て固まった。
「……何だこれ」
見覚えがある。
ありすぎる。
自分の部屋。
リビング。
廊下。
―全部、再現されている。
しかも、妙にリアルだ。
「……お前ら」
一歩、近づく。
「……一体何やってんだよ」
「解析だ」
エドが答える。
「お前の生活圏を」
一拍。
「完全に把握する」
「や・め・ろ」
ジョージがページをスライドさせる。
「……まず」
指で画面を指す。
「冬休みのビデオ通話」
「だからやめろ」
「その際の背景に映り込んだ『壁紙の継ぎ目』と」
さらに。
「床のフローリングの反射率」
一拍。
「これらから、部屋の体積を逆算しました」
「……は?」
「さらに」
ジョージは止まらない。
「カメラのわずかな傾き」
「照明の影」
「音の反響」
「……お前らマジ何してんの?」
「統合した結果」
淡々と。
「部屋の寸法は、ほぼ一致しています」
「てか怖ぇよ」
エドが補足する。
「……タクミ」
「何だよ」
「お前は脇が甘い」
「甘くねぇよ」
「露出している」
「何が」
「情報が」
「いい加減やめろってばよ…」
「……さらにだ」
ジョージが、別の画像を開く。
見覚えのある写真。
「あ」
拓海が固まる。
「それ……」
「……『実家の飯が茶色い』」
ジョージが読み上げる。
「煮物の写真です」
「やめろ」
「この画像の」
一拍。
「窓枠の角度」
さらに。
「影の長さ」
「………」
「そして」
「やめろって言ってんだろが…」
「撮影日」
一拍。
「太陽の南中高度」
「ああぁぁぁやーめーろー」
「これらを統合し」
ジョージが言い切る。
「窓の方角と、庭の植栽配置を特定しました」
沈黙。
「はぁ……お前ら」
拓海がゆっくり言う。
「CIAかよ」
「違う」
「違うのかよ!」
「精度が違う」
「全く…何がしたいんだよお前ら…」
「……そして、極めつけだ」
エドが、静かに言う。
画面が切り替わる。
「……この地点」
指差す。
「蔵だ」
「はぁ」
「……お前の母が送った」
一拍。
「漆の文箱」
「……あ」
「その底面に付着していた」
さらに一拍。
「土壌粒子と埃」
「や・め・ろ」
「これを分析した結果」
淡々と。
「湿度、約65%」
「やーめーろーー」
「換気効率、中程度」
「やめろ!!」
「……防衛には不十分だ」
「防衛しねえって!!」
エドは、ゆっくりと画面を拡大した。
リビング、その一角。
赤いマーカーが引かれる。
「……ここだ」
「どこだよ」
「接触点」
一拍。
「ナツミと佐藤(不純物)が交差する可能性が最も高い地点」
「言い方」
「……ここが」
さらに一拍。
「防衛上の脆弱点だ」
「家だぞそれ」
「……日本上陸後」
エドは続ける。
「私はここに」
嫌な予感しかしない。
「……電磁パルス遮断シールドを構築する」
「はい?」
「外部干渉を完全に遮断する」
「てかやめろ」
「視界も遮る」
「やーーめーーろ!!」
「……完璧だ」
「テレビ見れねぇだろうが!!」
ジョージは、震える手で記録していた。
ペンが止まらない。
【サエキ事変・四月某日】
一拍。
【ハミルトン、背景反射および粒子分析により、極東拠点の完全再構築に成功】
さらに。
【物理的障壁の無効化を確認】
「まじいい加減やめろってば」
拓海が言う。
ジョージは止まらない。
【サエキ、自室におけるプライバシーを完全に喪失】
さらに一拍。
【情報の強度、ついに壁を透過】
「やめろって言ってんだろ!!」
静かな寮に拓海の声だけが、無駄に響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




