表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第六話 「滞在を許可された」話

拓海君とお兄さんは8歳違います。その上に10歳違いのお姉さんもいます。

「タクミ」


「ん?」


「一つ、理解できないことがある」


拓海は顔も上げずに返す。


「日本語の文法なら、明日にしろ」


「違う」


一拍。


「……お前の存在だ」


そこで、初めて拓海が顔を上げた。

エドワードは、測るような目でこちらを見ている。


「この学校は、選ばれた人間が、相応の責任を背負うために来る場所だ」


淡々とした口調。

感情はない。

”ただの事実”として語っている。


「だが――」


わずかに間を置く。


「お前には、その“重さ”がない。ただ浮いている」


まっすぐに言い切る。


「なぜここにいる?」


悪意はない。

ただ、自分たちの領域に紛れ込んだ異物を観察するような目。


拓海はしばらく黙って、

それから鼻先で笑った。


「あー、、親だよ」


短く言う。


「昔、この学校となんか縁があったらしい」


肩をすくめる。


「兄貴が来る予定だったんだけどな」


少しだけ、自嘲が混ざる。


「色々あって、俺で代用」


軽く言った。

本当に軽く。


エドワードは眉をひそめる。


「……兄がいるのか」


「いる」


「では、お前はその代わりとしてここに運ばれてきたのか」


「言い方」


拓海は苦笑する。


「……まあ、間違ってはねぇけど」


一拍。


エドワードは視線を外した。

ほんの少しだけ、不機嫌そうに。


「不愉快だ」


ぽつりと言う。


「意志のない人間が、私の視界にいるのは」


「……帰れってか?」


「いや」


すぐに否定する。

エドワードは再び拓海を見る。

まっすぐに。


「お前は、私に日本語を教えている」


「……ああ」


「それは、お前の意志だ」


一拍。


「ならば、ここにいてもいい」


「は?」


拓海が顔をしかめる。

エドワードは当然のように言った。


「私が、お前の滞在を許可する」


傲慢だった。

恐ろしく、子供じみた傲慢さ。

だが、その目には一切の迷いがない。


「……なんだそれ」


拓海は呆れたように笑う。


「お前に許可される筋合いねーよ」


「事実だ」


即答。


「私の隣に座る以上、お前は私の客だ」


一歩も引かない。


「誰にも文句は言わせない」


(……こいつ、マジか)


一瞬だけ、言葉を失う。


それから。

ふっと、笑いが漏れた。


「……はは」


「最高に偉そうだな、エド」


「当然だ」


エドワードはわずかに顎を上げる。


「ハミルトンの後継者だからな」


夕闇が中庭を包み始める。

その中で、エドワードは満足げに頷いた。


そして。


当然のようにノートを差し出す。


「ところでタクミ」


切り替えが早い。


「“枕草子”の続きだ」


「まだやるのかよ」


「当然だ。疑問は山ほどある」


まっすぐな目。

まったくブレていない。


拓海はため息をついて、

それでもノートを受け取る。


「……お前、本当にブレねぇな」


「必要だからな」


即答。

夕闇の中、


またいつもの距離で並ぶ。


重さも、理由も、

全部どうでもよくなるくらいに。


会話だけが、続いていく。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ