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幕間「家族会議(ディレクトリ)とは、子どもの将来を話し合う手順ではなく、極東の秀才と西欧の魔王が最高出力でバックアップ体制を構築した結果、世田谷の3LDKが完全包囲される現象のことである」という話

悠馬君。今のうちにたくさん遊んでおくれ・・・

【世田谷・佐伯家】


休日の朝、

世田谷の三LDK。


拓海は焼き鮭をご飯へ乗せながら幸せそうに頬張っていた。


「うめぇ。」


「今日の鮭、最高。」


菜摘は味噌汁をよそいながら笑う。


「あなた。」


「ん?」


「そろそろ悠馬の幼稚園、決めない?」


拓海の箸が止まった。


「……。」


「え?」


菜摘は首を傾げる。


「来年入園でしょう?」


「…………。」


拓海は悠馬を見る。


積み木で遊んでいる。

まだ小さい。

どう見ても赤ちゃんだ。


「いや。」


「まだ早くね?」


菜摘。


「三歳よ。」


「うそだ。」


その瞬間。

悠馬が元気よく手を挙げた。


「ぼく!しゃんしゃい!!」


拓海。


「本当に三歳だった!!」


菜摘が笑う。


「だから言ったでしょう。」


拓海は頭を抱えた。


「昨日まで赤ちゃんだったじゃん……。」


【合同捜査本部】


昼。


拓海は事件資料ではなく、

幼稚園のパンフレットを持って歩いていた。


「松本。」


「はい。」


「幼稚園ってどうやって選ぶ?」


龍平はキーボードを打つ手を止めた。


「……。」


「何故。」


「その質問を私に。」


「いや。」


「全然分かんねぇ。」


「書類いっぱいあるし。」


「菜摘は教育方針とか言ってるし。」


「俺は全部同じに見える。」


龍平は静かにため息をつく。


「……私に聞かないでください。」


「頼むよー。」


「断ります。」


そう言って仕事へ戻る。


その夜。

家賃数万円のワンルーム。


龍平はコンビニ弁当を机へ置く。


資料の横には、

幼稚園検索サイト。


……


・防犯体制

・避難訓練

・送迎方法

・教育理念

・園児数

・保育士配置

・交通量

・周辺犯罪件数

・災害時避難経路


……


午前三時。


龍平。


「……。」


「これでしょう。」


翌朝。


「佐伯さん。」


拓海。


「ん?」


龍平は分厚いファイルを差し出した。


「世田谷区内。」


「候補五園です。」


「比較資料。」


「防犯。」


「教育。」


「給食。」


「送迎。」


「総合評価。」


「ご確認ください。」


拓海。


「…………。」


「一晩で?」


「はい。」


「はえぇよ!!」


【イギリス・ウィルトシャー ハミルトンホール】


執事が静かに一礼する。


「旦那様、日本のジョージ様より定期報告です。」


「繋いでくれ。」


ほどなくして、スピーカーから聞き慣れた声が響いた。


「もしもし、ハミルトン様。」


「本日のタクミ情報です。」


「うん。」


「佐伯家、悠馬君の幼稚園探しを始めたみたいですよ。」


沈黙。


執事はそっと紅茶を置く。

エドワードが静かに口を開いた。


「ジョージ。」


「はい。」


「日本全国の幼稚園一覧を用意してくれ。」


「……はい?」


「タクミの息子だ。」


「最初の社会生活だぞ。」


「妥協は許されない。」


ジョージは思わず笑う。


「いやいや、ハミルトン様?」


「幼稚園ですよ?」


「だからだ。」


「英国の名門校ならともかく、日本全国はさすがに範囲が広すぎません?」


「狭い。」


「狭いんですか。」


「もっと条件を増やそう。」


「増やすんですか……。」


ジョージは小さくため息をついた。


「分かりました。」


「とりあえず日本支社にも協力させます。」


「頼む。」


通話が切れる。


静かになった執務室で、執事がぽつりと呟いた。


「……また始まりましたね。」


エドワードは真顔で頷く。


「ああ。」


「当然だ。」


「悠馬君の未来が掛かっている。」


執事は窓の外を見ながら心の中だけで呟いた。


(幼稚園探しに、ハミルトングループ総動員ですか……。)


【数日後・佐伯家】


テーブルいっぱいに並ぶ資料。


菜摘。


「私はここが好きかな。」


悠馬。


「ここ!」


龍平。


「私も。」


「総合的に最適と判断します。」


スマホからジョージの声。


「日本支社でも評判は良いようですよ。」


そして。


エドワード。


「決まりだね。」


「そこにしよう。」


拓海。


「…………。」


「いや。」


「なんで。」


「俺の息子の幼稚園。」


「全員で決めてんだよ!!」


菜摘は笑う。


龍平は真顔。


ジョージは笑いを堪え。


エドワードだけが満足そうに紅茶を口へ運んだ。


世田谷の三LDK。


この日もまた

世界で一番過保護な防衛網は、本人の知らないところで着々と強化されていたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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