第五百三十八話 「誘導(ルート)とは、標的を力ずくで追い込むことではなく、自ら「見つけた」と思わせた道筋を静かに歩かせることで、真実へ近付いているという錯覚そのものを利用する現象のことである」という話
苦手すぎてうまく進めない悪循環_| ̄|○
【General Logistics・地下機密セクタ】─ 静かに盤面を動かす者
地下深く。
午前一時。
巨大なモニターだけが、静かに青白い光を放っていた。
世界中を巡る物流網。
資金の流れ。
港湾。
空港。
監視映像。
無数の情報が、一人の男の前へ集まっていく。
General Logistics 管理者。
【ヴィクター】
部下が足音を殺し、静かに報告する。
「管理者。」
「報告です。」
ヴィクターは画面から目を離さない。
「続けろ。」
「松本龍平。」
「港湾会社の調査を開始しました。」
「佐伯拓海。」
「松本龍平への警戒を継続しています。」
「ジョージ・ラングレー。」
「企業調査から物流網の分析へ移行しました。」
部屋が静まり返る。
ヴィクターは三枚の画面へ視線を移した。
龍平
拓海
ジョージ
三人とも違う場所を見ている。
「……面白い。」
小さく呟く。
「松本は。」
「証拠を追う。」
「佐伯は。」
「人を見る。」
「ジョージは。」
「企業を見る。」
「入口は違う。」
「だが。」
「辿り着く先は。」
「同じだ。」
部下が尋ねる。
「排除しますか。」
ヴィクターは静かに首を横へ振った。
「まだだ。」
「人は。」
「自分で見つけた答えを。」
「最も疑わない。」
「だから。」
「見つけさせる。」
「こちらが。」
「用意した真実を。」
部屋は再び静寂へ包まれた。
【合同捜査本部】─ 小さな前進
翌日、
合同捜査本部。
龍平は港湾会社から取り寄せた資料を机いっぱいに広げていた。
会社名。
取引先。
輸送経路。
倉庫。
コンテナ。
一つひとつは何の変哲もない。
だが、
点が少しずつ増えている。
そこへ缶コーヒーを片手に拓海がやって来た。
「松本。」
「はい。」
「何か出たか。」
龍平は資料から目を離さない。
「まだ決定打ではありません。」
「ですが。」
「少しだけ。」
「繋がり始めています。」
拓海は資料を覗き込まない。
龍平の顔だけを見る。
「そうか。」
「なら。」
「そのまま進めろ。」
「はい。」
拓海は軽く頷くと、そのまま歩き去っていく。
龍平は小さく笑った。
”証拠が揃うまでは何も聞かない”。
それが佐伯拓海という刑事だった。
【東京・ハミルトン日本支社】── 数字の向こう側
ジョージ・ラングレーは画面を見つめていた。
General Logistics。
財務
税務
監査
どれだけ洗っても異常はない。
秘書が静かに口を開く。
「やはり問題ありませんか。」
ジョージは首を横へ振る。
「問題がありません。」
「それが問題です。」
静かに椅子へ寄り掛かる。
「企業は。」
「必ず歪みます。」
「失敗もする。」
「揉め事も起こる。」
「ですが。」
「この会社には。」
「何も残っていない。」
「綺麗すぎます。」
秘書が尋ねる。
「調査対象を変更しますか。」
ジョージはゆっくり頷いた。
「数字だけでは見えません。」
「物流。」
「港湾。」
「倉庫。」
「物の流れを追いましょう。」
「会社は。」
「最後には。」
「人へ繋がります。」
【地下】── 誘導
部下が新たな報告書を差し出した。
「管理者。」
「港湾会社の資料です。」
ヴィクターは一枚だけ目を通す。
小さく笑った。
「届いたか。」
「予定通り。」
部下は不思議そうな顔をする。
「予定通り……ですか。」
「松本龍平は。」
「この資料へ辿り着く。」
「ジョージ・ラングレーも。」
「やがて。」
「同じ場所へ来る。」
「そして。」
「二人とも。」
「これを。」
「真実だと思う。」
部下は息を呑む。
ヴィクターは静かに画面を閉じた。
「最初の真実は。」
「本当の真実である必要はない。」
「本物でありながら。」
「全体から見れば。」
「枝で十分だ。」
【エンドログ】
その夜。
合同捜査本部。
正式な照会をかけていた港湾会社から、追加資料が届いた。
龍平は静かにページをめくる。
一枚。
また一枚。
その手が止まった。
コンテナ搬入記録。
数字に異常はない。
だが搬入時刻だけが、
他の記録と一時間だけずれている。
誰も気付かないほど小さな違和感。
「……。」
龍平は資料を見つめたまま、小さく息を吐く。
その時だった。
隣から缶コーヒーを持った拓海が覗き込む。
「松本。」
「はい。」
「何か見つけたか。」
龍平は静かに頷いた。
「ええ。」
「恐らく。」
「見つけました。」
拓海は資料ではなく、龍平の表情を見る。
そして小さく呟く。
「……嫌な匂いがする。」
それだけ言い残し、歩き去っていく。
龍平は再び資料へ視線を落とした。
一方。
地下深く。
同じ資料を映したモニターを眺めながら、ヴィクターは静かに微笑む。
「そうだ。」
「松本龍平。」
「それでいい。」
「それが。」
「私が見つけさせた。」
「最初の真実だ。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




