第五百三十七話 「同期(リンク)とは、同じ戦場を歩むことではなく、一人が過去を追い、一人が現在の違和感を追うことで、噛み合わない足並みが最も強く結び付いていく現象のことである」という話
もっとサクサク進めたいけどなぁ・・
【合同捜査本部・深夜】
深夜。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った合同捜査本部。
書類を整理する音だけが、小さく響いていた。
松本龍平は一枚ずつ資料を閉じる。
その横で。
缶コーヒーを片手に拓海がぼんやり事件資料を眺めていた。
「松本。」
「はい。」
「この会社。」
資料を指で叩く。
「……何か変じゃね?」
龍平は資料を見る。
物流会社。
登記。
税務。
代表者。
決算。
どこにも問題はない。
「どこがです。」
「いや。」
拓海は首を傾げる。
「分かんねぇ。」
「でも。」
「変。」
龍平はため息をつく。
「佐伯さん。」
「刑事は"変"では動けません。」
「証拠が必要です。」
「知ってる。」
拓海はあっさり答えた。
「だから松本がいるんだろ。」
龍平は顔を上げる。
「……はい?」
「俺は。」
「変だ。」
「まで。」
「その先は。」
「お前。」
その一言に。
龍平は少しだけ考え込む。
【違和感】
翌日。
二人は会社周辺を歩いていた。
拓海は周囲を見回す。
龍平はメモを取る。
「松本。」
「はい。」
「あの警備員。」
「……。」
「何か変。」
龍平は視線を向ける。
普通だ。
制服。
態度。
勤務時間。
何もおかしくない。
「何がです。」
「……。」
拓海は腕を組む。
「分かんねぇ。」
「でも。」
「何か隠してる顔。」
「顔。」
「はい。」
龍平は思わず苦笑する。
「顔では立件できません。」
「だろ。」
拓海も笑う。
「だから調べろ。」
【証拠】
三日後。
龍平は一冊のファイルを拓海の机へ置いた。
「ありました。」
拓海は顔を上げる。
「警備員です。」
「勤務先を偽っています。」
「前職は港湾会社。」
「退職後。」
「General Logisticsの関連企業へ在籍。」
「さらに。」
「代表者が今回の偽造旅券事件と繋がっています。」
拓海はニヤッと笑う。
「だろ。」
龍平は少しだけ肩を落とした。
「……またですか。」
「何が。」
「あなたです。」
「毎回。」
「最初の一歩だけは。」
「当たる。」
拓海は笑う。
「でも。」
「途中から分かんねぇぞ。」
「だから。」
「松本。」
「お前が必要なんだ。」
【少しずつ】
それから。
そんなことが何度も続いた。
「松本。」
「はい。」
「このアパート。」
「変。」
「どこがです。」
「静か。」
「……。」
翌週。
「ありました。」
「空室のはずの部屋に。」
「偽造旅券製造設備。」
また別の日。
「松本。」
「この人。」
「笑ってねぇ。」
「写真ですが。」
「うん。」
「でも。」
「変。」
数日後。
「ありました。」
「この人物。」
「別名義を三つ持っています。」
いつも同じだった。
拓海は理由を説明できない。
龍平は理由を探す。
そして。
最後には必ず。
「ありました。」
になる。
【二人】
ある夜の帰り道。
龍平がぽつりと言った。
「佐伯さん。」
「ん?」
「一つ。」
「聞いてもいいですか。」
「いいぞ。」
「どうして。」
「分かるんです。」
拓海はしばらく歩きながら考えた。
「……。」
「分かんねぇ。」
龍平は苦笑する。
「でしょうね。」
「でも。」
拓海は夜空を見上げた。
「何か引っ掛かる。」
「その、引っ掛かった所を松本が見てくれる。」
「だから俺は」
「安心して変だって言える。」
龍平は黙って歩く。
少しして。
小さく笑った。
本当に。
ほんの少しだけ。
「……そういう役目ですか。」
「おう。」
「最高の役だろ。」
【エンドログ】
暗い部屋。
巨大なモニター。
ヴィクターは二人の映像を静かに眺めていた。
「管理者。」
「佐伯拓海。」
「違和感だけで動いています。」
「松本龍平。」
「証拠を集めています。」
ヴィクターは指を止める。
「……なるほど。」
「役割分担か。」
部下が尋ねる。
「排除しますか。」
ヴィクターは首を横へ振った。
「まだ。」
「松本は。」
「餌を見る。」
「佐伯は。」
「松本を見る。」
「なら。」
「まだ盤面は崩れない。」
静かにモニターが切り替わる。
夜道を並んで歩く二人。
一人は前だけを見る。
もう一人は隣を見ている。
ヴィクターはその映像を見つめ、小さく呟いた。
「……厄介だな。」
「目的は違う。」
「だが。」
「互いの欠けた部分を埋めている。」
「これでは。」
「どちらか一人だけでは崩れない。」
部屋は再び静寂に包まれた。
【東京・ハミルトン日本支社】── 企業という違和感
ジョージ・ラングレーは、静かにモニターへ視線を落とした。
画面には一社の企業情報。
General Logistics
物流。
倉庫。
港湾。
航空。
海運。
世界各地に支社を持つ、ごく普通の総合物流企業。
「……。」
ジョージはマウスを動かす。
財務、正常。
税務、正常。
株主、正常。
労務、正常。
違法性、ゼロ。
「おかしい。」
秘書が顔を上げる。
「何がでしょう。」
「綺麗すぎます。」
ジョージは画面を閉じない。
「企業というものは。」
「必ず。」
「どこかで歪みます。」
「人が経営する以上。」
「失敗する。」
「揉める。」
「訴えられる。」
「買収される。」
「内部告発もある。」
「ですが。」
「この会社には。」
「何もない。」
静かな沈黙。
「……。」
「そんな会社は。」
「存在しません。」
さらに資料を開く。
海外子会社、また正常。
関連会社、正常。
監査、正常。
ジョージは腕を組む。
「見えている情報が綺麗なのではない。」
「見せられている情報が綺麗なんです。」
秘書が尋ねる。
「ハミルトンでも調べますか。」
ジョージは少し考える。
「まだ。」
「今回は。」
「企業を追います。」
「人ではなく。」
「会社。」
「会社を追えば。」
「必ず。」
「人へ辿り着きます。」
そして。
ジョージはイギリスへ一本の国際電話を掛ける。
「ハミルトン様。」
「General Logisticsだけど…気になるな。」
エドワードは静かに答える。
「理由は。」
「綺麗すぎる。」
「……。」
「そうか。」
「ジョージ。」
「深入りはするな。」
「承知しるよ。」
通信が切れる。
ジョージは再びモニターを見る。
General Logistics。
「あなたは何を隠しているんですかね。」
一方。
ヴィクター側。
部下。
「管理者。」
「ジョージ・ラングレー。」
「General Logisticsの調査を開始しました。」
ヴィクターは画面を見つめる。
そこには。
龍平。
拓海。
そして。
ジョージ。
三つの画面が並んでいる。
「……。」
「面白い。」
部下。
「排除しますか。」
「いや。」
ヴィクターは静かに首を振る。
「松本龍平は。」
「事件を追う。」
「佐伯拓海は。」
「違和感を追う。」
「ジョージ・ラングレーは。」
「企業を追う。」
「入口は三つ。」
「だが。」
「辿り着く場所は。」
「一つ。」
静かに笑う。
「盤面が。」
「動き始めた。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




