表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
592/725

第五百三十六話 「捕獲(クラッキング)とは、牙を剥いて標的を追い詰めることではなく、「知りたい」という感情そのものを餌として撒き、自ら深淵へ歩かせる現象のことである」という話

むずかしい・・・(。-`ω-)

【General Logistics・機密セクタ】── 餌


地下深く。

窓一つない部屋。

壁一面に並ぶ巨大なモニターだけが、冷たい青白い光を静かに放っていた。


そこには、日本各地の港湾、高速道路、空港、物流倉庫、海外支社、送金記録。

世界中を巡る物流網が、一枚の巨大な盤面のように映し出されている。


その中央。

深夜の成城。

一人の男が静かに歩いていた。


松本龍平。


胸ポケットには、一通の白い封筒。

部下が報告する。


「管理者。」


「対象が動き始めました。」


ヴィクターは画面から視線を外さない。


「そうか。」


「食い付きました。」


「予定通りです。」


「警察組織への報告。」


「なし。」


「佐伯拓海への相談。」


「なし。」


「完全な単独行動です。」


ヴィクターは静かに頷いた。


「焦る必要はない。」


「人間は。」


「知りたい真実ほど、自分の足で近付いてくる。」


「こちらが追う必要はない。」


「餌だけ撒けばいい。」


部下は一瞬だけ首を傾げた。


「……管理者。」


「本物の資料を使うのですか。」


「偽造ではなく。」


ヴィクターは小さく笑う。


「偽物は疑われる。」


「だが、本物は疑われない。」


「人間は、自ら苦労して裏付けた情報ほど、絶対に正しいと信じる。」


画面が切り替わる。


二十年前。

既に清算された物流会社。


港湾会社。

ペーパーカンパニー。

その全てに赤い文字。


【清算済】


ヴィクターは一本の線を指先でなぞった。


「これは枝だ。」


「既に役目を終えた。」


「切られても構わない。」


さらに指は現在へ伸びる。

世界中へ張り巡らされた無数の物流網。


港。

倉庫。

航空会社。

送金ルート。


「守るべきは。」


「こちらだ。」


「一本の枝を差し出せば。」


「警察は枝を切った達成感で満足する。」


「事件は終わった。」


「そう思い込む。」


「その間に。」


「幹は生き続ける。」


部下は静かに息を呑んだ。


「つまり。」


「松本龍平には。」


「過去だけを見せる。」


「ああ。」


ヴィクターは迷いなく答えた。


「二十年前の真実は渡して構わない。」


「だが。」


「現在だけは渡さない。」


「それが誘導だ。」


その時だった。


画面が一枚切り替わる。


合同捜査本部。

缶コーヒーを片手に歩く佐伯拓海。


部下が口を開く。


「管理者。」


「佐伯拓海については。」


「依然、有効な証拠は一切ありません。」


「我々への接点も確認されておりません。」


ヴィクターは静かに首を横へ振った。


「違う。」


その一言だけで空気が変わる。


「問題は。」


「証拠ではない。」


「彼は。」


「証拠だけで判断しない。」


部下は理解できず黙り込む。

ヴィクターは拓海の映る画面を見つめ続けた。


「証拠は作れる。」


「履歴も作れる。」


「会社も作れる。」


「事件すら作れる。」


「だが。」


「人間だけは。」


「設計できない。」


数秒の沈黙。


「彼は。」


「人を見る。」


「だから。」


「こちらがどれだけ盤面を整えても。」


「予定通りには動かない。」


「世界で最も管理しづらい。」


「イレギュラーだ。」


部下は静かに尋ねる。


「危険なのでしょうか。」


ヴィクターは小さく笑った。


「危険ではない。」


「面倒だ。」


「非常に。」


部下は端末へ新たな命令を入力する。


「では。」


「第二段階へ。」


「松本龍平をさらに誘導します。」


「ああ。」


「彼は。」


「必ず自分の意思で歩く。」


「だから。」


「誰にも止められない。」


「佐伯拓海とは。」


「まだ交わらせるな。」


「二人が情報を共有した瞬間。」


ヴィクターは画面に映る二人の刑事を見つめた。


「こちらの盤面が。」


「崩れ始める。」


部下は静かに頷く。


「承知しました。」


ヴィクターは最後に、三枚のモニターを順に見た。


一枚目。

単独で真実を追う松本龍平。


二枚目。

違和感だけを抱え始めた佐伯拓海。


三枚目。

世界中へ広がるGeneral Logistics。


「まだ。」


「三人とも。」


「別々の場所を見ている。」


「だから。」


「盤面は。」


「こちらのものだ。」


地下室は再び静寂に包まれた。


巨大なモニターには。

夜の街を歩く松本龍平の背中だけが、静かに映り続けていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ