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幕間 「格差(ディレクトリ)とは、世田谷の家賃相場を数的処理した秀才が、過保護すぎる大型犬の日常を前に「世界は理不尽でできている」と骨髄単位で悟る現象のことである」という話

龍平君、でしょうね!(`・ω・´)

【世田谷署・合同捜査本部】── 招待という名の災害


偽造旅券事件が一段落した頃。

合同捜査本部にも、ほんの少しだけ平穏な時間が戻っていた。


松本龍平は黙々と書類をまとめている。

その平穏を、いつもの大型犬が木っ端微塵にした。


「なぁ松本!」


「……。」


嫌な予感しかしない。


「お前、一人暮らしだっけ?」


「はい。」


「今度さ、家来いよ。」


「……はい?」


「菜摘が『松本くん一回連れてきて』って。」


「いつも拓海がお世話になってるから、ご飯くらいご馳走したいんだと。」


龍平は顔を上げる。


「私が。」


「佐伯さんの家へ?」


「そう。」


「迷惑かけてるし。」


「……。」


龍平は静かに頷いた。


「確かに。」


「迷惑はかけられていますね。」


「ひでぇ!!」


「お前もうちょっと否定しろよ!!」


「事実です。」


「菜摘ぃぃぃ!!松本がいじめる!!」


「仕事してください。」


「はい……。」


(なんなんだこの大型犬。)


【世田谷・高級マンション】


約束の週末。

龍平は住所を二度見した。

そして、三度見した。


スマートフォンを見た。

マンションを見た。

スマートフォンを見た。


「……。」


住所は合っている。


「……。」


建物も合っている。


「……。」


おかしい。

そこへ。


「松本ー!」


拓海が手を振っている。


「あ、来た来た!」


「どうした?」


龍平は真顔で聞いた。


「佐伯さん。」


「はい。」


「住所、間違えていませんか。」


「合ってるぞ?」


「……。」


「ここ。」


「俺んち。」


「……。」


龍平はもう一度建物を見上げた。


(世田谷。)


(駅徒歩五分。)


(高層階。)


(コンシェルジュ付き。)


(……。)


(世界は理不尽でできている。)


エレベーター。

龍平はまだ無言だった。


部屋へ入る。


「おー。」


「適当に座れ。」


龍平は立ったまま聞いた。


「……家賃は。」


「十万。」


「はい?」


「十万。」


「……。」


「毎月?」


「うん。」


「……。」


「世田谷ですよ?」


「うん。」


「三LDKですよ?」


「うん。」


「この広さですよ?」


「うん。」


「……。」


拓海は首を傾げる。


「何?」


「安いだろ?」


龍平は静かに目を閉じた。


「佐伯さん。」


「はい。」


「市場相場をご存知ですか。」


「知らん。」


「興味もない。」


「友達の会社が持ってる部屋だから。」


「ここ住めって。」


「……。」


(友達。)


(英国伯爵。)


(そうでした。)


そこへ。


「いらっしゃい!」


菜摘が笑顔で現れる。


「松本くん!」


「初めまして!」


「いつも拓海がお世話になってます!」


龍平は一礼した。


「こちらこそ。」


(奥様……。)


(まともな人だ。)


食卓。


龍平は黙る。


肉。

魚。

煮物。

サラダ。

汁物。

副菜。

デザート。


「……。」


菜摘が笑う。


「たくさん食べてね!」


「何もないけど。」


龍平は思った。


(旅館ですか。)


拓海は笑う。


「遠慮すんな!」


「食え食え!」


「菜摘の飯うめぇぞ!」


「自慢するところそこじゃないです。」


その時だった。

拓海の後ろから、小さな男の子が顔を出す。


「ゆうま。」


「ご挨拶。」


「……。」


モジモジ。


「はじめまちて。」


「しゃえきゆうまでしゅ。」


「しゃんしゃいでしゅ。」


龍平は固まった。


(可愛い。)


(礼儀正しい。)


(賢そう。)


(誰に似た。)


拓海が胸を張る。


「俺。」


龍平は即答した。


「違います。」


「なんで!?」


「科学的に違います。」


さらに。


双子。


「きゃー!」


「うー!」


龍平。


(……。)


(双子。)


(美人妻。)


(優秀な息子。)


(高級マンション。)


(料理上手。)


(英国伯爵が友人。)


(……。)


(なんなんだ。)


その夜。


自宅。

六畳。

机。

ベッド。

冷蔵庫。

昨日届いた白い封筒。


『真実を知りたくないか』


龍平は封筒を見た。

数秒。


そして。

静かに天井を見上げる。


「……。」


「事件は事件として。」


「一つだけ。」


「どうしても納得できないことがあります。」


沈黙。


「佐伯拓海。」


「私は。」


「やはり。」


「お前が嫌いです。」


「ええ。」


「骨髄単位で。」


「世界は、理不尽でできています。」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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