表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
584/679

第五百二十九話 「誕生とは、二つの命が祝福される裏側で、巨悪が初めて「名前」を持つ現象のことである」という話

一応前後見ながら書いてはいるんだけど段々大丈夫なのかがわからなくなってきています(´・ω・`)

偽造旅券組織の幹部を逮捕してから、数か月。


警視庁合同捜査本部は解散したものの、世田谷署刑事課の佐伯拓海と、

成城署刑事課の松本龍平は、引き続き関連事件を追っていた。


二年。


長かった。


張り込み。

聞き込み。

国際照会。

応援要請。


事件が終われば、また次の事件。

その繰り返しだった。


刑事になったばかりの頃は、違和感だけで走る拓海に龍平は呆れ、

拓海は証拠ばかり見る龍平に「頭でっかちだなぁ」と笑っていた。


それでも二年という時間は、人を変える。


拓海が「何か変だ」と言えば、龍平は「もう調べています」と答える。

龍平が「切られました」と言えば、拓海は「まだ上がいる」と理解する。


和解したわけではない。

仲良くなったわけでもない。

それでも互いの背中だけは、誰よりも信用していた。


そんなある夜だった。


世田谷区内。


張り込み中の捜査車両。

静かな車内に、携帯電話の着信音だけが響く。

拓海は画面を見た。


【菜摘】


その二文字を見た瞬間、思考が止まる。


「……もしもし!?」


『あなた。』


菜摘の声だった。

その向こうは、どこか慌ただしい。


『病院。』


「え?」


『生まれそう。』


拓海は完全に固まった。


「……今?」


『今。』


数秒。

何も言えない。

その様子を見ていた龍平は、前を向いたまま静かに言う。


「佐伯さん。」


「……。」


「行ってください。」


「いや、でも張り込みが――」


「ここは私が引き継ぎます。」


拓海が振り向く。

龍平は資料から目を離さない。


「あなた。」


「父親でしょう。」


その一言だった。

拓海は苦笑すると、コートを掴んで立ち上がる。


「悪い!」


「恩に着る!」


勢いよく車を飛び出し、病院へ向かって全力で走っていく。

その背中を見送りながら、龍平は小さく呟いた。


「……間に合うといいですね。」


翌朝。

佐伯家に、一卵性双生児の姉妹が誕生した。


凛。

そして蘭。


二つの小さな命を腕に抱いた拓海は、刑事でもなく、一人の父親として笑っていた。


同じ頃。


ウィルトシャー、ハミルトンホール。

ジョージ・ラングレーは、日本から届いた報告書を手に、受話器を取った。


『――どうした、ジョージ。』


「ハミルトン様。」


「おめでたい報告です。」


『……うん?』


「タクミの家に、双子が生まれました。」


短い沈黙。


『……双子?』


「ええ。」


「女の子です。」


「凛さんと、蘭さん。」


エドワードは静かに窓の外へ目を向けた。

夜霧に包まれた庭園。

その向こうに、遠い日本を思う。


「……そうか。」


それだけだった。

だが、その声はどこか柔らかかった。


「菜摘さんも、無事なのだね。」


「はい。」


「母子ともに健康です。」


「……それなら良かった。」


親友の家族が増えた。

その事実だけで、胸の奥が静かに満たされる。


だが。

ジョージの報告は、それだけでは終わらなかった。


「ハミルトン様。」


「もう一件あります。」


空気が変わる。


ジョージは机いっぱいに並べた古い資料へ視線を落とした。


二十年以上前。


英国。

失踪事件。

偽造旅券。

人身売買。


すべてを繋ぐ一冊の極秘資料。

ようやく最後の閲覧権限が解除された。


そこに記されていたのは、一つの名前。


”General Logistics Corporation”


ジョージは静かに息を吐く。


「……やっと掴みました。」


「奴らの名前です。」


電話の向こうで、エドワードは黙った。


”General Logistics”。


それは表向きは物流企業。

しかし、その実態は世界各地へ人と金を流し続ける巨大な犯罪組織。


そして。

その組織を二十年以上前、ハミルトン家が独自に追っていた記録が残されていた。


エドワードは静かに万年筆を握る。


「……General Logistics。」


低く呟く。


その瞬間。


バキッ。


乾いた音が執務室に響いた。

握っていた万年筆が、真ん中から折れていた。


ジョージは何も言わない。

エドワードも、折れた万年筆を見つめたまま動かない。


長い沈黙の後、ようやく口を開いた。


「ジョージ。」


『はい。』


「資料を集め続けてくれ。」


「まだ全貌は見えていない。」


「だが。」


灰色の瞳が、夜霧の向こうを見据える。


「……嫌な予感がする。」


その頃。


地図にも記録にも存在しない地下施設。


「管理者。」


部下が頭を下げる。


「General Logistics極東支部。」


「偽造旅券班の切り離し、完了しました。」


男①は静かに頷いた。


「予定通りだ。」


画面には二枚の顔写真。


佐伯拓海。

松本龍平。


男①は感情のない目で二人を見つめる。


「……監視対象。」


「優先度を一段階引き上げろ。」


「はい。」


「この二人は――」


「今後、我々の障害となる。」


誰もまだ知らない。


双子の誕生を祝う穏やかな朝の裏側で。

世界のどこかでは、新たな戦いが静かに始まろうとしていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ