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第四百八十七話 「ギャップとは、新たな檻のルールに戸惑うことではなく、日本人でありながら「日本の当たり前」を一番新鮮に感じてしまう海外帰りの大型犬が、一人だけ首を傾げ続ける現象のことである」という話

なんか前話と被ったきがする

入校式が終わる頃には、拓海の頭の中は軽く混乱していた。


警察学校。

そこは想像していた以上に、細かいルールで出来ていた。


「学生番号順に整列!」


教官の号令が響く。

同期たちは迷うことなく動き始める。

拓海も慌てて動いた。


「……あれ」


一瞬だけ足が止まる。


(俺、何番だっけ)


胸元の番号を見る。


「あ、これか」


急いで列へ入る。

周囲は誰一人迷っていない。


(みんな覚えてるんだな)


少し感心した。


イギリスでも規律は厳しかった。

寄宿学校も大学も、自由というわけではない。


だが。


学生番号で整列する。

そんな光景は、ほとんど記憶になかった。


「次、週番について説明する。」


教官の声が続く。

拓海は思わず首を傾げた。


(週番……)


聞いたことはある。

昔、中学校でやっていた気もする。

だが、何をする係だったかまでは思い出せない。


高校からイギリス。

そのまま大学。


気付けば十年近く、日本の学校生活から離れていた。


だからだろうか。

周囲が当たり前に理解していることが、自分にはどこか新鮮だった。


「生活班。」


「掃除当番。」


「点呼。」


「外出許可。」


説明が進むたびに、拓海は心の中で一人だけ感心していた。


(へぇ。)


(日本ってこうだったんだ。)


日本人なのに。

ここにいる誰よりも、日本の学校文化へ驚いている。

それが少しだけ可笑しかった。


******************


昼休み。

ようやく肩の力を抜ける時間だった。


食堂は思っていた以上に広い。

拓海は空いた席へ腰を下ろし、味噌汁を一口飲む。


「……うま。」


思わず頬が緩んだ。


やっぱり日本の飯はうまい。

それだけで少し幸せになる。

周囲では自然と会話が始まっていた。


「どこ出身?」


「大学どこ?」


「社会人だった?」


初日らしい話題ばかりだ。


聞いているだけでも面白い。

本当に色々な人間がいる。


年齢も。

経歴も。

ここへ来るまで歩いてきた道も。


きっと誰一人同じではない。


それでも最後には、この場所へ集まってきた。


警察官になるために。

そう考えると少し不思議だった。


ふと。


視線の先で、一人だけ静かな男が目に入る。


少し離れた席。

痩せた体格。

短く整えられた黒髪。

誰とも話さない。

黙って食事をしている。


初日だから珍しくはない。


けれど。


周囲の「緊張」とは少し違った。

張り詰めているというより。

どこか疲れ切っているような。

そんな空気をまとっていた。


拓海は数秒だけ見つめる。


(静かな人だな。)


それだけだった。

話しかける理由もない。


名前も知らない。

今はまだ。

ただの同期だった。


**************


午後。


説明はまだ続く。


規律。

敬礼。

報告。

点呼。

生活。


覚えることは山ほどあった。


そのたびに拓海は思う。


(へぇ。)


(なるほど。)


(日本の警察学校って、こんな感じなのか。)


周囲は誰も驚かない。

当たり前だからだ。


驚いているのは、自分だけ。

その小さな文化の違いが、少しだけ面白かった。

窓の外には、秋の空が広がっている。


半年。


長いようで、きっとあっという間なのだろう。


まだ、この教室にどんな人間がいるのかも分からない。


誰と笑うのかも。

誰とぶつかるのかも。

何一つ知らない。


ただ一つだけ確かなことがある。


この半年は、きっと退屈しない。

そんな予感だけが、静かに胸の奥へ残っていた。


【Takumi OS:日本人なのに、日本の学校が一番新鮮だった。】


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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