第四十四話 「学内晩餐は、もう一度の”面接”だ」という話
次はイースター・バカ回かな
三月。
夕刻、学内のホールは、いつもと違う空気をまとっていた。
磨かれた床。
整然と並ぶ長卓。
控えめな照明。
騒がしさはない。
ただ、音を立てることを許さない空気だけがある。
「……やめときゃよかった」
拓海は、襟元を少し引きながら呟いた。
「問題ない」
隣で、エドワードが答える。
すでに整っている。
姿勢も、視線も、呼吸も。
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「そうか」
一拍。
「だが」
続ける。
「ここは、そういう場所だ」
短い言葉だった。
だが、意味は十分だった。
(……だろうな)
拓海は、周囲を見た。
教師。
上級生。
そして、無言で観察している視線。
(……あー)
理解する。
(またか)
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席に着く。
今回は、前よりも中央に近い。
理由は、分からない。
しかし。
意味は、ある。
「……サエキ」
向かいから声。
年配の教師だ。
「ハミルトンと、親しいそうだな」
「まぁ、はい」
軽く答える。
その一言だけで、空気がわずかに動く。
「そうか」
教師は頷いた。
それ以上は聞かない。
だが、”見ている”。
完全に。
(……面倒くせぇな)
心の中で呟く。
そのとき。
「……タクミ」
横から、小さな声。
エドワード。
「何だよ」
「背筋」
「うるせぇ」
だが、無意識に直す。
「……フォークは外側からだ」
「知ってる」
「順番」
「知ってるって」
小さなやり取り。
だが。
さりげなく、補正されている。
(……こいつ)
少しだけ、思う。
(前より、うるせぇな)
でも、嫌ではなかった。
食事が始まる。
静かに。
正確に。
誰も音を立てない。
しかし。
視線だけが、動いている。
(見られてるな)
前よりも、はっきりと分かる。
試されている。
測られている。
でも。
今回は、違った。
「……サエキ」
先ほどの教師が、再び口を開く。
「この学校は、どうだ」
「どうって」
一拍。
「普通ですよ」
空気が止まる。
誰かが、わずかに顔を上げる。
「普通、か」
教師が繰り返す。
「はい」
拓海は頷く。
「飯はうまいし」
一拍。
「人も、まぁ普通だし」
さらに一拍。
「悪くないです」
沈黙。
そのまま、食事に戻る。
誰も何も言わない。
だが。
空気が、”ほんの少しだけ”変わる。
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しばらくして、
エドワードが、小さく言った。
「……タクミ」
「何だよ」
「今のは」
一拍。
「正解だ」
「何がだよ」
「分からないか」
「分かんねぇよ」
エドワードは、それ以上言わなかった。
ただ。
ほんのわずかに、視線を緩めた。
⸻
食事が終わる。
席を立つ。
ざわめきが戻る。
張り詰めていた空気が、ほどける。
「……なんなんだこれ」
拓海が呟く。
「疲れるな」
「慣れろ」
「無茶言うな」
少し歩く。
そのとき、背後から声。
「サエキ」
振り返ると、先ほどの教師。
一拍。
「君は」
言葉を選ぶ。
「面白いな」
それだけ言って、去っていく。
(……は?)
意味が分からない。
「……タクミ」
エドが言う。
「何だよ」
「通ったな」
短くそれだけ。
「……またそれかよ」
拓海は苦笑した。
だが
今回は、少しだけ違った。
(……まぁ、いいか)
肩の力を抜く。
隣を見る。
エドワードがいる。
”いつも通り”。
でも、ほんの少しだけ。
距離が、近い気がした。
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その日。
学園の一部では、こう記録された。
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三月某日。
サエキ・タクミ。
学内晩餐において、“普通”を提示。
結果、評価を獲得。
新たな基準として、“自然体”の有効性が確認される。
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(だから違うっての)
拓海は思った。
だがその“違い”は。
今回も、正しく伝わることはなかった
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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