第四十三話 「ディベートは、論理だけでは勝てない」という話
よくわからないけど人気ある子っているよね?
三月。
談話室の空気が、どこか張り詰めていた。
理由は単純だ。
「……本日」
ジョージが、静かに言う。
「ディベート大会が開催される」
「へぇ」
拓海はパンをかじりながら答えた。
「普通のイベントじゃねぇか」
「違う」
即座に否定される。
「これは」
一拍。
「知性の戦争だ」
「その言い方やめろ」
周囲も頷いている。
「……サエキ」
別の生徒が言う。
「お前も出るんだろ」
「出ねぇよ」
「出る」
横から声。
エドワード。
「エントリー済みだ」
「してねぇよ!!」
「私がした」
「やめろ!!てか一言いえよ!!!」
完全にいつもの流れだった。
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ディベート会場。
壇上。
整然と並ぶ机。
そして。
やたらと真面目な空気。
「……やっぱやめときゃよかった」
拓海が呟く。
「問題ない」
エドワードが言う。
「絶対に勝つ」
「あぁ、お前がな」
「違う」
一拍。
「我々だ」
「巻き込むなよ…」
テーマが発表される。
『伝統は、維持されるべきか』
(重いな)
拓海は思った。
しかり。
隣のエドワードは、すでに戦闘態勢だった。
「……タクミ」
「何だよ」
「任せろ」
「おう、全部任せた」
即答。
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開始時間。
相手側が話し始める。
論理。
構造。
データ。
全て完璧だった。
「……強いな」
拓海が小さく言う。
「問題ない」
エドワードが答える。
そして立ち上がる。
「伝統とは」
低く、はっきりした声。
「構造である」
始まる。
論理の嵐。
・歴史的背景
・社会構造
・維持の合理性
すべてが、正しい。
すべてが、強い。
すべてが、隙がない。
(……すげぇな)
拓海は思った。
しかし、同時に。
(……長いな)
とも思った。
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数分後。
空気が、少しだけ変わる。
完璧だが、重い。
伝わるが、遠い。
そのとき。
「……補足する」
拓海が、立ち上がった。
「タクミ?」
エドワードが一瞬だけ見る。
「……難しく考えすぎじゃねぇか」
会場が、静かになる。
「伝統ってさ」
一拍。
「残ってるから、あるだけだろ」
沈黙。
「いいもんなら残るし」
続ける。
「いらねぇもんなら消える」
さらに一拍。
「それでいいんじゃねぇの」
言い終わり、座る。
しんとした静寂。
(……やっちまったか?)
拓海は思った。
しかし。
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結果発表。
「……勝者」
一拍。
「サエキ・タクミ組」
ざわめき。
「……は?」
拓海が固まる。
「なぜだ」
誰かが言う。
審査員が答える。
「論理は完璧だった」
一拍。
「だが」
続ける。
「伝わらなかった」
さらに一拍。
「後者は、単純だが」
「本質を突いていた」
沈黙。
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帰り道。
「……タクミ」
エドワードが言う。
「何だよ」
「なぜだ」
一拍。
「私の方が、正しかった」
「そうだな」
「だが」
続ける。
「勝ったのは、お前だ」
「まぁな」
軽く答える。
少しだけ、歩く。
「……なぁ」
拓海が言う。
「難しくしすぎなんだよ」
「……そうか」
エドは、少しだけ考えた。
「だが」
一拍。
「単純なものは、不安定だ」
「そうかもな」
拓海は肩をすくめる。
「でも」
一拍。
「分かるやつの方が、残るだろ」
沈黙。
エドは、何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ。
視線を落とした。
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その日。
学園の一部では、こう記録された。
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三月某日。
サエキ・タクミ。
論理戦において、構造を無視し勝利。
新たな戦術として、“単純化”が確認される。
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(違う)
拓海は思った。
(普通だっての)
でも、この学園では。
“普通”こそが、最も理解されない概念だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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