第四十一話 「歴史は、勝手に”講和”を成立させる」という話
菜摘ちゃんはシャーマン(確定)
三月下旬。
談話室の一角に、異様な静けさがあった。
暖炉の前の机の上。
広げられた一冊のノート。
【サエキ事変:観測記録及び年表】
その前で。
ジョージが、ペンを持ったまま固まっている。
「……決めきれない」
小さく呟く。
「何がだよ」
拓海がパンをかじりながら言う。
「三月十四日の項だ」
「ホワイトデーか」
「そうだ」
ジョージは、ゆっくりと頷く。
「これは“報復”ではない」
「あぁ、違うな」
「かといって“敗北”でもない」
「だから何でもねぇってばよ」
「均衡が成立している」
一拍。
「つまり――」
ペン先が止まる。
「“講和”だ」
「違ぇってば」
即答だった。
だが、ジョージはすでに書いていた。
――三月十四日:ホワイトデーの講和
「オイ書くな」
「歴史だ」
「いや、やめろ」
そのとき。
「……ジョージ」
静かな声。
エドワードだ。
いつの間にか背後に立っている。
ノートを覗き込む。
一拍。
「修正が必要だ」
「えっ、どこでしょうか!」
ジョージが食いつく。
エドは、ペンを取った。
迷いがない。
さらりと書き加える。
※講和ではない。ハミルトンの勝利だ(完食されたため)
「……お前なぁ」
拓海が言う。
「どこを勝ってんだよ」
「結果だ」
「過程無視すんな」
周囲がざわめく。
「……完食」
「つまり、受容された……?」
「いや、支配か……?」
「どっちでもねぇよ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
そのとき。
ジョージが、ふと顔を上げた。
「……もう一つ、問題がある」
「まだあんのかよ」
「ナツミの項だ」
空気が、わずかに変わる。
「……何だよ」
ジョージは、ノートの別ページを開いた。
そこにはすでに書かれている。
・ナツミ:東洋勢力の供給源
「これでは、足りない」
「足りてるだろ」
「いや」
静かに首を振る。
「新たな情報が追加された」
一拍。
「“うちの神社”」
空気が、止まる。
「……つまり」
ジョージが言う。
「ナツミは、単なる供給者ではない」
ペンを走らせる。
・ナツミ:供給源兼、霊的干渉能力を有する個体
「いや、やめろ」
拓海が即座に言う。
「ただの幼馴染だってばよ」
「違うな」
誰かが呟く。
「巫女だ」
「シャーマン言うな」
「シャーマン……」
「言うなって言ってんだろ!!」
そのとき。
エドワードが、静かに口を開いた。
「……タクミ」
「何だよ」
「確認する」
一拍。
「ナツミは」
さらに一拍。
「巫女か」
「だから違うって」
即答だった。
だが。
一瞬、間が空く。
「……実家が神社なだけだ」
沈黙。
そして。
「……それを」
ジョージが言う。
「巫女と呼ぶのではないのか」
「呼ばねぇよ」
「……なるほど」
ジョージは頷いた。
そして、書いた。
・ナツミ:巫女※本人は無自覚
「やめろって言ってんだろ!!」
その日。
サエキ事変ノートは、春の特別編纂を迎えた。
三月十四日:ホワイトデーの講和(※ハミルトンの勝利)
ナツミ:巫女として確定
そして。
余白には、小さく書き加えられていた。
※東洋勢力、第二段階へ移行
(全部違う)
拓海は、静かに目を閉じた。
(全部違うんだってばよ……)
だが。
その“違い”は、もはや誰にも届かない。
暖炉の火だけが、静かに揺れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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