第四十話 「日本の「お守り」は、霊的なバフ」だという話
菜摘シャーマン説
三月。
ホワイトデーの騒動が、まだ完全には収まっていない頃。
拓海の机の上に、小さな包みが置かれていた。
「……またか」
青い封筒ではない。
だが、差出人は同じだ。
”ナツミ”
(今度は何だ……)
静かに開ける。
中に入っていたのは――
小さな布袋。
紐で結ばれた、掌に収まるサイズのそれ。
「……お守りか」
自然に言葉が出る。
それを見た瞬間。
周囲の空気が、変わった。
「……何だそれは」
ジョージが、低く問う。
「お守り」
「……オマモリ」
復唱する。
知らない単語だった。
「神社とかで売ってるやつ」
「ジンジャ」
さらに復唱。
「宗教施設か」
「まぁそんな感じ」
軽く答える。
だが。
その軽さは、誰にも伝わらなかった。
「……タクミ」
横からエドワードの声。
すでに観察モードに入っている。
「それを見せろ」
「はいはい」
軽く放る。
エドは受け取る。
指先で、触れる。
一拍。
「……軽い」
「そりゃな」
「だが」
裏返す。
紐を見る。
縫製を見る。
「構造が単純すぎる」
「ただの布だぞ」
「……いや」
エドの目が、わずかに細まる。
「これは、物理的な機構ではない」
「は?」
「干渉型だ」
「何にだよ」
「運だ」
「雑だな」
だが、エドは続ける。
「外部からの影響を」
一拍。
「緩和、あるいは強化する装置」
「ただの願掛けだって」
「……なるほど」
エドは頷く。
「自己強化ではなく」
さらに続ける。
「環境干渉型か」
「やめろ」
話がややこしくなる。
そのとき。
ジョージがノートを取り出した。
「記録する」
「おいするな」
「三月……」
書き始める。
「“霊的強化装置の初確認”」
「だからーーやめろって言ってんだろが!!」
周囲もざわめく。
「……これが」
「東洋の第二段階……」
「物理から霊的へ……」
「進化している……」
「してねぇよ!!」
完全に方向が違う。
そのとき。
拓海のスマホが震えた。
メッセージ。
ナツミから。
『お菓子ありがとう!』
一拍。
『お礼にお守り送ったよ(*^-^*)』
さらに続く。
『うちの神社でちゃんと祈願してきたから大丈夫!』
のぞき込んだ連中から聞かれる。
「……タクミ、なんて?」
「菜摘から、お守りはうちの神社で祈願したってさ」
「タクミ」
エドワードが言う。
「何だよ」
「今の…」
一拍。
「“うちの神社”とは何だ」
「菜摘ンちだよ」
「……実家」
さらに一拍。
「神社」
周囲が、ざわつく。
「……まさか」
「供給源か……?」
「本拠地……」
「やめろ」
だが、止まらない。
エドが、ゆっくりとお守りを見る。
「……つまり」
低く言う。
「これは」
一拍。
「現地で祈願されたもの、ということか」
「そうだけど?」
「……なるほど」
静かに頷く。
だが、確信を持って。
「強度が違う」
「だから何のだよ」
エドは、お守りを丁寧に持ち直した。
「タクミ」
「何だよ」
「これは」
一拍。
「常に携帯しろ」
「なんでだよ」
「合理的判断だ」
「意味が分からん」
「……危険だ」
「何が」
「ナツミだ」
「やめろって言ってんだろ!!」
周囲が、静かに頷く。
「……霊的干渉」
「長期効果……」
「持続型バフ……」
「ゲームにすんな」
その日。
学園の一部では、こう記録された。
―三月某日。
東洋勢力による、第二段階の干渉を確認。
物理的供給に続き、霊的強化が開始される。
これにより、戦局は新たな局面へと移行した。
(いや違う)
拓海は思った。
(全部違う)
だが。
誰も、その“違い”を認識していなかった。
その中心にいる当人だけが、
ただの「お守り」を、ポケットに入れながら。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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