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幕間 「ホワイトデーは、国境を越えると”事件”になる」という話

拓海君のお父さんは刑事さんです。

三月、日本。

都内、とある税関。


「……こちら、佐伯様でお間違いないでしょうか」


「はい」


低く、落ち着いた声。

佐伯和也は、差し出された書類に目を落とした。


一拍。


視線が止まる。


「……異常だな」


静かに、呟く。


机の横。

積まれた箱。

ひとつではない。


複数。

しかも、どれも同一規格。


「すべて、同一の送り主ですか」


「はい。英国からの発送で、差出人も同一です」


「内容物」


「菓子類、と申告されています」


沈黙。


和也は、箱を一つだけ軽く叩いた。


鈍い音。

重さがある。


「……量が凄いな」


担当者が頷く。


「個人宛としては、かなりの量でして……」


「営利目的の可能性…あるいは、何らかの贈答ですが……この規模ですと」


言葉を濁す。

和也は、短く息を吐いた。


「送り先は」


書類を見る。

一拍。


「……息子か」


「はい」


空気がわずかに変わる。


「イギリスに留学中とのことで」


「そうです」


和也は頷いた。

視線は、すでに書類から離れている。

頭の中で、整理が終わっていた。


>送り主:英国

>内容:菓子

>量:異常

>宛先:息子


「確認を取ります」


「お願いします」


ポケットから携帯を取り出す。

迷いなく番号を押す。


数回のコールが聞こえ、繋がる。


「もしもし」


眠そうな声。


「……父さん?」


「拓海」


短く呼ぶ。


一拍。


「状況を確認する」


「何の?」


「お前宛に、英国から菓子が届いている」


沈黙。


「量は」


紙を見ずに言う。


「個人の贈答としては過剰だ」


さらに一拍。


「心当たりは」


完全に取り調べだった。


「……ある」


声が覚醒する。


「あるけど」


「送り主の名前は」


「エドワード・ハミルトン」


「関係は」


「友達」


「頻度は」


「……今回が初」


沈黙。


和也は、結論を組み立てる。


「理由は」


「……バレンタインの」


さらに一拍。


「返礼」


空気が止まる。


ーーーーーーーーーーーーーーー


税関。


担当者が、息を潜める。

和也は、ゆっくりと目を閉じた。


そして。


「拓海」


「はい」


「それは本当に返礼か」


「わからん…」


即答だった。


「なぜそうなった」


「巻き込まれた」


「……なるほど」


一拍。


「送り主は」


和也が言う。


「どういう人物だ」


沈黙。


「……貴族」


短い答え。

だが、十分だった。


税関の空気が変わる。

和也は、静かに息を吐く。


「悪意は」


一拍。


「ない、でいいな」


「うん」


「しかし、」


視線が箱に戻る。


「規模がバカだ」


「それな!」


即答。


和也は、わずかに口元を緩めた。

ほんの一瞬だけ。


「……まぁ分かった」


一拍。


「今回は私が処理する」


「ごめん」


「帰国後、詳細を聞く」


「……はい」


通話が切れる。



税関。

和也は担当者を見る。


「個人間の贈答です」


「ですが、この量は」


「責任は私が持ちます」


短く言い切る。


沈黙。


やがて、担当者が頷く。


「……承知しました」


手続きが進む。

書類が処理される。


箱が、動く。

帰り際。


和也は、もう一度だけ箱を見た。


英国から届いた、過剰な返礼。


そして、小さく呟く。


「……何をやっているんだ、あいつは」


一拍。


「……まぁいい」


踵を返す。

その判断は、すでに終わっている。


悪意なし。

規模過剰。

要観察。


それだけで十分だった。


帰り際。

和也は、もう一度だけ箱を見た。

英国から届いた、過剰な返礼。


「……何をやっているんだ、あいつは」


独り言は、冷たい。

だが。

その手には、息子から「父さんも食っといてよ」

と言われて取り出した試作品第十号が、一袋だけ握られていた。


「……甘すぎる」


呟きながら、車に乗り込む。

その顔は、刑事ではなく、ただの父親のものだった。


英国からの“事件”は、こうして日本に上陸した。


誰の意図とも違う形で。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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