幕間 「サエキの日常は、後世への”遺産”だ」という話
バカ回書くのは好きなんだけど、読んでて楽しいと思ってくれるか不安
冬休み明けの談話室。
暖炉の火が、静かに揺れている。
その前で。
ジョージたちが、なぜかやけに真剣な顔でノートを囲んでいた。
「……いや、ここは『漆の誓い』より、『ジャパン・エンゲージメント』の方が強度は高い」
「待て。公式記録(噂)では、姫はあの箱を『家宝』として登録したらしい。……ならば『東洋からの信標』が妥当だ」
議論が、重い、しかし内容が、完全におかしい。
(……嫌な予感しかしねぇ)
拓海は、ゆっくりと輪の中へ踏み込んだ。
「……お前ら、何やってんだよ」
一瞬、空気が止まる。
ジョージが、はっとしてノートを隠そうとする。
だが。
「遅い」
拓海の方が速かった。
ひょい、と奪い取る。
表紙が目に入る。
………金文字。
【サエキ事変:観測記録及び年表(編纂:第4寮有志一同)】
「……は?」
静かに開く。
中身は…
綺麗すぎるカリグラフィーで、
見覚えのある日常が、見覚えのない“歴史”として記述されていた。
9月15日:【邂逅】
漆黒の異邦人、サエキ・タクミ降臨。
姫との談話室での文学談義により、運命の歯車が回転を開始。
11月20日:【ナツミの影】
日本より「青い密書」を観測。
姫、初のジェラシー(論理的混乱)を検知。
12月24日:【漆の宣戦布告】
サエキ家より「漆の文箱」投下。
ハミルトン家当主との極秘会談を経て、事実上の「ハミルトン騎士」として叙任。
1月10日:【舞姫の悲劇】
森鴎外の教典により、姫が「エリス(捨てられ役)」を自認。
日英国際紛争の火種が蒔かれる。
「……なんだよこれおい」
一拍。
「100%捏造だらけじゃねぇか!!」
思わず叫ぶ。
だが。
ジョージは、落ち着いた動作で眼鏡を押し上げた。
「……サエキ」
静かに言う。
「これは『事実』ではない」
「知ってるよ!」
「……『真実(解釈)』だ」
一瞬、言葉に詰まる。
「……後世の寮生たちが」
ジョージは続ける。
「君たちの歩みを、正しく(面白おかしく)受け継ぐための聖典なんだよ」
「面白おかしくって言ったな今!!」
訂正する気がない。
むしろ誇らしげだ。
(終わってる)
そのとき。
背後に、気配。
振り向く前に分かる。
「……エド」
本物が来た。
エドワード・ハミルトン。
静かに歩み寄り、ノートを覗き込む。
一拍。
「……ジョージ」
低い声。
「この12月25日の項目」
「は、はい! ハミルトン様!」
「修正が必要だ」
「えっ、どこでしょうか!」
ジョージが身を乗り出す。
エドは、淡々と指を置いた。
「……『ダンスにて魅了』ではない」
一拍。
「『構造的リードによる完全同期』だ」
「……」
「タクミのステップの強度は」
さらに続ける。
「私が計算したものだからな」
「……お前」
拓海が言う。
「認めるなよ」
一拍。
「内容に文句言えよ!!」
誰も聞いていない。
エドワードは自然な動作でペンを取り、
余白に書き加える。
※この時、タクミの耳は、お雛様のように赤かった
「書くな!!!」
間に合わない。
「「「おおお……!」」」
空気が一気に変わる。
「本人(姫)からの直筆だ!」
「史料価値が跳ね上がった!」
「国家予算級だ……!」
「なんでだよ!!」
談話室が、熱狂に包まれる。
拓海は、ゆっくりとノートを見下ろした。
そこに書かれているのは、自分の日常。
だが。
扱われているのは、完全に“歴史”だった。
(……詰んだ)
静かに、目を閉じる。
(俺のプライバシー……)
もう、戻らない。
そのとき。
ふと、頭に浮かぶ。
(……菜摘)
遠く、日本の現実側の人間。
(助けてくれ……)
心の中で呟く。
(俺、もう……)
一拍。
(歴史の教科書に載るかもしれない)
暖炉の火が、パチパチと静かに揺れていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




