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第三十八話 「舞姫は、サエキの”近未来予想図”だ」という話

エドワード君…あんたいったい何がしたいんだw

放課後の談話室。

窓の外は、灰色の空。

人の気配はあるが、どこか静かな時間だった。


その中心で。


エドワードが、文庫本を手に座っている。


『舞姫』


その表情は、いつになく沈痛だった。

まるで、国家の崩壊でも予見したかのように。


「……タクミ」


低い声が落ちる。


「私は……絶望した」


「……また本かよ」


拓海は鞄を置きながら、ため息をつく。


「今度は何だよ。……森鴎外? 渋いな」


軽く流そうとした、その瞬間。


ーーーバァン!


机が鳴った。


「……この『トヨタロウ』という個体は」


エドワードが顔を上げる。

その目は、真剣だった。


「留学先のエリスを捨て、日本へ逃げ帰った」


一拍。


「……これは、日本人の『標準的なプロトコル』なのか」


「いや、違ぇよ!」


即答だった。


「大体あれは明治時代の――」


「否定するな」


静かに、だが強く遮られる。


「学園のネットワークによれば」


嫌なワードが出た。


「お前には、日本に『ナツミ』という個体(婚約者)が存在する」


「だからその呼び方やめろ」


「つまり」


エドは続ける。


「お前もいずれ、私(ハミルトン家)を捨て」


一拍。


「日本へ帰還するという伏線ではないか」


「……は?」


(コイツはまたなにを言っているんだ)


理解が追いつかない。


その周囲で、なぜか

野郎どもが、一斉に静まり返った。


そして。


「……そうか」


誰かが呟く。


「サエキは……現代の豊太郎だったんだ……」


「……姫を、エリスに見立てるなんて……」


「……なんて残酷な物語だ……」


目元を押さえる者までいる。


「……おい待て」


拓海が言う。


「誰がエリスだ」


一拍。


「大体お前はヒロインじゃねぇだろ」


その瞬間。


エドワードが、ふい、と視線を逸らした。

耳の先が、わずかに赤い。


「……私は」


低く、呟く。


「捨てられない」


一拍。


「ハミルトンの強度は、ベルリンの踊り子とは違う」


「比較対象おかしいだろ」


「もしお前が逃げるなら」


視線が戻る。

まっすぐ。


「私は、軍を動かしてお前を拿捕する」


「いや物騒すぎるわ!!」


思わず叫ぶ。


「それ普通に犯罪だからな!?」


だが、誰も止めない。

むしろ。


「……姫が本気だ……」


「戦争だ……」


「日英か……」


勝手にスケールが拡大している。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……タクミ」


再び、エドが呼ぶ。


その手は、わずかに震えていた。

文庫本のページを開く。

指が、一行を示す。


「……この『相沢謙吉』という個体」


声は、低い。


「友人を説得し、女を捨てさせた存在」


一拍。


「……こいつは、誰だ」


「知らねぇよ」


「私の周囲に」


視線が鋭くなる。


「このような『不純物』は存在するか」


「いねぇよ!」


即答だった。


「っていうか」


少し強く言う。


「俺は誰も捨てねぇし、誰も妊娠させてねぇよ!」


一瞬の沈黙。


「……ならば」


エドワードが、立ち上がる。

嫌な予感が、確信に変わる。


「証明しろ」


「何をだよ」


「夏休み」


一拍。


「私も日本へ行く」


「は?やめろ」


反射的に言う。

だが、止まらない。


「お前の『ナツミ(婚約者)』に会い」


「だから婚約者じゃねぇって」


「私が『相沢謙吉』の役割を反転させ」


淡々と続く。


「お前をイギリスへ永久拘束する構造を確立する」


「逆効果だろ!!」


机を叩く。


「菜摘に一体何て説明すればいいんだよ!!」


周囲がざわめく。


「……ついに、直接対決か……」


「構造的デュエル……」


「歴史が動くぞ……」


「だから動かねぇよ!!」


拓海は、ゆっくりと頭を抱えた。


終わっている。

その隣で。

エドワードは静かに頷く。


「問題ない」


「だから何がだよ!」


返事はない。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


こうして。


拓海の胃痛は、ただの誤解を越え。


『舞姫』という近代文学の“エグみ”によって、


ついに……


世界規模の「略奪愛(という名の完全な勘違い)」へと、


発展しようとしていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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