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第四話 「あざーっす」を使ってしまった話

コメディの塩梅がいまいちわからない

応接室。


重厚な扉。

磨かれた机。

静まり返った空気。


校長と来賓が向かい合っている。


「本日はお越しいただき、ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ」


落ち着いたやり取り。

格式ある空間。


その一角に、

場違いな二人がいた。


「なんで俺ここにいんの」


小声でコソコソと言う。


「日本語だ」


即答。

エドワード・ハミルトン。

当然の顔。


「だからってなんで同席なんだよ」


「必要だからだ」


「いや、雑すぎるだろ理由が」


拓海はため息をつく。

視線が痛い。


(通訳か……?)


勝手に納得されているのが一番嫌だ。


「では」


校長が言う。


「ハミルトン」


エドワードが一歩前に出る。


姿勢は完璧。

所作も完璧。


小柄な体でも、空気を支配する。


『本日は――』


一拍。


(日本語で挨拶…?!)


拓海の嫌な予感が、限界まで膨らむ。


そして。


『お招きいただき、あざーっす』


止まった。

時間が。

完全に。


(……終わった)


誰も動かない。

校長が固まる。


来賓の日本人が、ゆっくりと瞬きをする。


沈黙…だが。


「……ほう」


校長が穏やかに微笑んだ。


「それが、最近の日本の挨拶ですか」


やめろ。


理解するな。


エドワードは一切動じない。


「はい」


迷いなく頷く。


「親しい間柄において、深い敬意を示す言葉だと教わりました」


視線が動く。

全員が完全に拓海を捉える。


(やめろやめてください)


「なるほど……」


来賓は感心したように頷く。


「距離の近さを感じる、興味深い表現ですね」


違う。


全部違う。


「はい」


エドワードは堂々と続ける。


「非常に合理的です」


合理性で語るな。


拓海は俯く。


顔を上げられない。


(あの野郎あとで絶対殺す)


面会は、なぜか成立した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


数分後、寮の廊下。


「ハミルトン」


呼び止められる。


振り返ると、校長と来賓。


あ、終わったな。


「少しいいか」


「はい」


エドワードは落ち着いて頷く。


「先ほどの挨拶についてだが」


「はい」


「“あざーっす”と言ったな」


「はい」


迷いがない。


「意味を、もう一度」


「親しい間柄において、深い敬意を示す言葉です」


即答。


一切の迷いなし。

来賓が小さく咳払いをする。


「……確かに、そういう場面もありますが」


“も”が重い。


「非常に砕けた表現でして」


一拍。


エドワードの眉が、わずかに動いた。


「……そうですか」


「ええ。正式な場では、通常は使いません」


静かに告げる。


そして。


「誰に教わりましたか?」


核心。


「タクミです」


即答。


売ったな。


ーーーーーーーーーーーー


「サエキ」


呼ばれる。


嫌な予感しかしない。


振り向くと、

エドワードと校長と来賓。

完全に詰み。


「来い」


逃げ場なし。

観念して歩く。


「……何でしょうか」


平静を装う。

エドワードが言う。


「“あざーっす”の件だ」


「……あー」


終わった。


「説明してもらう」


「お前な」


小声で言う。


「売るなよオイ」


「事実を述べただけだ」


全く悪びれない。


「お前が教えたのだろう?」


「まあ、そうだけどさあぁぁ」


逃げられない。

来賓が穏やかに言う。


「どういう意図で教えましたか?」


静かな追及。

一瞬迷って、観念する。


「……面白かったんで」


沈黙。


完全にアウト。


だが。


「……ふ」


来賓が小さく笑った。


「若者らしい理由ですね」


助かった、のか?


校長はため息をつく。


「ハミルトン」


「はい」


「言葉は使う場を選ぶものだ」


「理解しました」


素直だな。


「今後は気をつけるように」


「はい」


話は終わった、らしい。


廊下を歩く。


沈黙。


「お前な」


拓海が言う。


「何だ」


「何だじゃねぇよ」


振り返る。


「“あざーっす”ってなんだ」


エドワードは少し考える。


「感謝の言葉だろう」


「いや違う」


「親しい間柄で使う」


「そこは合ってる」


「では問題ない」


「あるよ!大問題だわ!!」


一歩も引かない。


エドワードはしばらく考えて、


「……難しいな」


「当たり前だ」


だが。


「だが」


エドワードは続ける。


「通じたぞ」


「通じるけどさぁ………」


それが一番まずい。


「日本語は面白い」


満足そうに言うな。


拓海は顔を覆う。


「……もう(なるべく)変なの教えねぇ」


「困る」


即答。


「必要だ」


当然のように言う。


拓海はしばらく黙って、


それから小さく息を吐いた。


「……次はちゃんとしたの教える(ようにする)」


「期待している」


ほんとに懲りてない。

拓海は空を見上げた。


(やべぇの育ててるな、これ)


でも。

少しだけ、笑っていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。

いいねや感想など、いつも励みになっています。


この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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