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第三十三話 「晩餐は、胃の「耐久テスト」だ」という話

どういう試験なんだろ

扉の向こうは、光だった。


天井から落ちるシャンデリアの輝き。

整然と並ぶ人々。

静かに流れる音楽。


そのすべてが、さっきまでいた廊下とは別世界だった。


「……うわ」


思わず、声が漏れる。


「前を見ろ」


隣でエドワードが言う。


「姿勢を崩すな」


「いや俺初見だぞこれ」


だが、立ち止まるわけにもいかない。


一歩、踏み込む。


その瞬間。


――視線が、集まった。


(……来たなこれ)


分かる。


歓迎ではない。

確認だ。


「エドワード様」


声がかかる。


年配の男。

整えられた白髪。

立ち姿に無駄がない。


その後ろにも、同じような視線が並ぶ。


「その方は?」


エドワードは、迷いなく答えた。


「タクミ・サエキ」


一拍。


「私の唯一の友人(例外)だ」


(余計な一言つけんな!!)


心の中で即座に否定する。


だが、もう遅い。


「ほう……東洋の」


「例外、とは」


空気が、変わる。


囲まれる。


逃げ場はない。


(……また面接だこれ)


完全に理解した。


視線が、測る。


立ち方。

視線。

呼吸。


すべてを。


拓海は、わずかに息を整えた。


(……落ち着け)


教えられたことは少ない。

だが、ゼロではない。


ゆっくりと、頭を下げる。

深くはない。

だが、雑でもない。


ー会釈。


静寂。

一瞬、止まる。


「……ほう」


誰かが、息を漏らす。


「なんと……」


別の声。


「無駄がない」


評価が、始まった。


(……え?)


予想と違う。


「異国の礼でありながら、芯が通っている」


「誇り高い」


「なるほど、エドワード様が」


勝手に話が進む。


(なんでだよ)


ただ頭を下げただけだ。

エドワードが、横でわずかに顎を引いた。


「タクミの強度は」


静かに言う。


「お前たちの理解を超えている」


(やめろ)


心の中で叫ぶ。


(ハードル上げんな)


だが、声には出さない。

出せない。


「なるほど……」


老貴族たちが、納得したように頷く。


(なんで納得した)


意味が分からない。

だが、評価は下がっていない。

むしろ、上がっている。


(……まぁいいか)


諦めた。


ーーーーーーーーーーーーーー


席に着く。

再び、戦場だった。


ナイフ。

フォーク。

種類が多い。


「……どれからだ」


小声で呟く。


エドワードが、隣から答える。


「外側からだ」


「それは分かる」


問題はそこじゃない。

エドが続ける。


「このフォークは、肉の繊維を断裂させるために特化した構造だ」


「言い方が物騒なんだよ」


「合理的だ」


「そういう問題じゃねぇ」


だが、手は動かす。

外側から。

一つずつ。


不器用ではない。

だが、慣れてもいない。


それでも。


「……問題ない」


エドが、小さく言う。

その声だけで、少しだけ楽になる。


食事が進む。

会話が交わされる。


問いかけられる。

答える。


難しいことは言わない。

だが、逃げもしない。


「……ほう」


また、誰かが頷く。


(通ってるのか……?)


自分でも分からないまま、時間が過ぎる。


ーーーーーーーーーーーーーーー


やがて、音楽が変わる。

空気が、緩む。


「タクミ」


エドワードが立つ。


一曲ミッションだ」


「は?」


嫌な予感しかしない。


「踊る」


「断る」


「問題ない」


「何がだ」


手を取られる。

逃げ場はない。

中央へ引かれる。


(終わった)


覚悟を決める。


「力を抜け」


エドが言う。


「任せろ」


「それが一番怖ぇよ」


音が流れる。

動き出す。


ー速い。


「ちょっと待て」


「合理的だ」


「何がだ!!」


だが、体は動く。

引かれるままに。


回される。

踏まされる。


「……おい」


「見るな」


「見るだろ!!」


周囲の視線。

だが。


「……あの動き」


誰かが呟く。


「流れるようだ」


「無駄がない」


「東洋の武術か……?」


(違う)


完全に違う。

だが、止まらない。

エドワードの動きは正確で、容赦がない。


結果。

拓海の動きも、結果的に整う。


「……なるほど」


「只者ではない」


評価が、また上がる。


(なにがだよ!)


心の中で崩れ落ちる。

やがて、曲が終わる。

静かに止まる。


一拍。


拍手。


「……なんだこれ(なんだこれ)」


小さく呟く。

エドワードは、いつも通りの顔で言った。


「問題ない」


「だから雑なんだよそれ」


息を吐く。

だが。

不思議と、嫌ではなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


その夜。


「……タクミ」


部屋に戻る途中、エドが言う。


「よくやった」


短い言葉。


「……そう、、なの、か?」


「問題ない」


同じ言葉。


だが。


さっきより、少しだけ違って聞こえた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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