第三百二十九話 「評価とは、当人の知らぬところで上がるものである」という話(後段)
お疲れ拓海君
二時間後。
穏やかな笑顔と、意味のない会話が一通り交わされ、
お茶会は何事もなかったかのように終わりを迎えた。
「では今日はこの辺で。またいずれ、ゆっくりと」
詩織が完璧な笑みで締めくくる。
その隣で、拓海は、誰にも届かない低音で吐き捨てた。
「…チッ…二度と来ねぇからな、バカ」
寮・夜
自室のドアを閉めた瞬間。
ネクタイを引き抜き、ベッドに倒れ込む。
「……新年早々、何なんだよ……」
一拍。
「……バカばっかだ」
削られたのは体力ではない。
精神だ。
そこへ、追い打ちのようにスマホが震えた。
『いくつか打診が来ているわよ^^ よかったわね(詩織)』
「なんでだよ!!」
飛び起き、即レス。
『知らねぇよ!! 断っただろ!!』
数秒。既読。
『断った“つもり”でしょう?』
一拍。
『それとね』
『私、今年で主人の赴任が変わるの^^』
『それまでに拓海を何とかしろって、お母様に言われているのよね^^(詩織)』
沈黙。
スマホを顔の横に落とす。
「……あんのクソババア……」
「……余計なことしかしねぇ……」
目を閉じても、消えない。
今日の視線。
値踏み。
勝手に作られていく“理想像”。
(……めんどくせぇ)
(……全部、エドが買い取ってぶち壊してくれりゃいいのに)
そんな最悪な発想が浮かぶ程度には、
拓海は追い詰められていた。
寮の外
冷たい夜気の中。
エドワードは、まだそこに立っていた。
「……終わったのか」
独り言のように、低く。
「どう見ても終わったでしょ(笑)」
隣でジョージが肩をすくめる。
「で? ハミルトン様」
一拍。
「これからどうするの?」
「彼はもう、君の知らない“打診の山”に埋もれ始めてるよ」
沈黙。
エドワードは、拓海の部屋の灯りを見上げる。
「……増えている」
「何が?」
「……敵だ」
一拍。
「……私の知らない場所で」
「私のタクミを、正当に―そして卑俗に評価しようとする敵が…」
「無数に増えている」
「増えたねぇ(笑)」
ジョージ、吹き出す。
「新年早々、難易度上がってるよ」
「君、まだ何もしてないのにね」
一拍。
「……最高だね」
■ジョージの機密ログ(一月:評価という名の包囲網)
一月。寮の向かいの暗がり。
僕は、ハミルトン様が“見えない軍勢”に対して宣戦布告する瞬間を見たよ。
サエキ。
君がバカと切り捨てたはずの縁談は、
血筋という名の呪縛によって、より強固な鎖になった。
君がどれだけ「自分は自分だ」と言っても、
世界は君を“佐伯家の後継者”としてしか見ない。
ハミルトン様。
君の敵は、もはや特定の誰かではない。
サエキを“価値ある商品”として扱う、
この社会の構造そのものだ。
彼を救い出すなら―
君もまた、その構造の中で
より大きな価値を提示しなければならない。
純粋な感情だけでは、勝てない戦場だ。
君は、そこに引きずり出された。
■ジョージ幕間(観測ログ:83-UK・見えない敵との戦争編)
エドワード(主演・全方位迎撃態勢):
「……ジョージ」
「ハミルトン家の全情報網を使え」
「タクミに届く打診を、全て私の元へ転送しろ」
「姉上の赴任先、実家の動向――全てだ」
「……彼を評価していいのは、この世界で私一人だ」
ジョージ(観察員):
「それ、普通に戦争だよ(笑)」
一枚の写真を差し出す。
暗い部屋。
電気を消したサエキ。
「見てよ」
「彼、君のことなんて一ミリも考えてない」
「ただ、自分の人生の“面倒くささ”に絶望して寝ようとしてるだけ」
一拍。
「……君がどれだけ敵を倒しても」
「一番の敵は、君自身かもね」
(追記)
翌朝。
「……あー、腹減った」
「……エドにメシ奢らせよ。バカ」
その一言で。
エドワードの表情が、一瞬で緩む。
「ふふふ…」
ジョージは、その変化を逃さない。
「ハミルトン様」
「どれだけ戦ってもさ」
「結局、君を救うのは―」
「彼のその図々しい一言なんだよなぁ(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




