第三百二十七話 「断ったはずの話ほど、終わっていないことが多い」という話
まぁ断ったところで伝わらないのがこういう話w
一月。年明けの寮。
新年を祝う空気など、拓海の部屋には微塵もなかった。
あるのは、こたつ代わりに持ち込まれた(エドワード私物の)最高級カシミアブランケットと、
その端に当然のように居座る資本主義の魔王の気配だけだ。
「……おいエド。お前、いつまでここにいんだよ。……自分の家帰れ、バカ」
拓海が煎餅を齧りながら毒づく。
だが、エドワードは読んでいるはずの本から目を離さず、静かに口を開いた。
「タクミ。今日の午後の予定は?」
「……寝る。……あと課題」
「そうか。……誰かに会う予定はないのだな?」
「……いねぇよ。……うるせぇな」
(……なんで帰ってきてから、ずっと俺の半径一メートル以内にいんだよ、コイツ)
拓海が内心で毒づいた、その時。
枕元のスマホが、不吉に震えた。
『新年のお茶会に来なさい。昨日言った例の方々もいらっしゃるわよ(詩織)』
「……は?」
乾いた声が漏れる。
「……断っただろ、バカ……なんで話続いてんだよ!!」
「……何がだ、タクミ」
エドワードの声が、一瞬で零度まで落ちた。
音もなく立ち上がり、拓海の手元を覗き込む距離まで詰め寄る。
「……例の方々、とは」
一拍。
「……あの縁談相手が、また来るということか?」
「知らねぇよ、姉貴が勝手に……! 行かねぇっつってんだろ!」
だが、詩織の追撃は止まらない。
『逃げても無駄よ。お迎えを向かわせたから、来なさい(詩織)』
「……強制イベント確定かよ……最悪だ……」
拓海が頭を抱えた、その瞬間。
エドワードの手が、静かに―だが逃がさない強さで肩を掴んだ。
「同行する」
「断る! 来んなバカ!」
「ならば、私が先に行く」
一拍。
「会場をハミルトン家で買い取る。……あるいは、
その“例の方々”の素性を一人ずつ洗ってから出向こう」
「……メンヘラかよ!! やめろ、死ね(比喩)!!」
「新年早々、修羅場だねぇ(笑)」
部屋の隅。
いつの間にか持ち込み禁止のニューイヤークッキーを広げていたジョージが、レンズ越しに笑った。
■ジョージの機密ログ(一月:監視と祝祭)
一月。寮のサエキの部屋。
僕は、ハミルトン様が“愛”を“監視”という名の軍事行動にアップグレードさせた瞬間を見たよ。
サエキ。
君の「断った」は、大人の世界では「もっと押せ」に翻訳される。
君が拒絶するほど、姉上は面白がり、
ハミルトン様は君の周囲をコンクリートで固めようとする。
ハミルトン様。
君のその同行宣言は、もはや騎士の守護ではない。
嫉妬に駆られた王の監視だ。
会場を買い取ったところで、
サエキの心の平穏は手に入らないのに。
……新年最初の決意がそれだなんて。
今年も面白くなりそうだねぇ。
■ジョージ幕間(観測ログ:81-UK・強制参加と独占欲編)
エドワード(主演・全方位監視システム):
「ジョージ。タクミの姉上の目的は、私から彼を引き離すことにある」
低く、確信めいて言う。
「……ならば私は、ハミルトン家の名において、そのお茶会を地獄に変えてやる」
ジョージ(観察員):
「それ、逆効果だよ(笑)」
肩をすくめる。
「サエキは君と一緒に地獄に行きたいんじゃない」
一拍。
「コタツで寝てたいだけだ」
「……君が無理やり来たら、あいつ本気で踏むよ」
拓海(迎えの車の前):
「……おいエド」
一拍。
「……マジでついてくんなよ」
「……一回黙れ、バカ」
「あーーもう正月から寿命縮むわ」
(追記)
「あーあw」
ジョージは、サエキを乗せた車を―
自ら運転するスポーツカーで、音もなく追走し始めたエドワードを激写した。
「ハミルトン様」
「君がどれだけ彼を管理したくても」
一拍。
「君を一番必死にさせているのは―」
「彼じゃない」
「君の思い通りにならない、この世界の方だよ(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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