第三百二十二話 「祝祭とは、離れているものを際立たせる装置である」という話
GWがおわるぅ(´;ω;`)
十二月。学術都市は浮き足立っていた。
歴史ある石造りの回廊には見事な装飾が施され、
学生たちの会話は、試験の反省から休暇の予定へと塗り替えられていく。
「サエキ、イブのパーティ空いてる?」
「サエキ君、良かったら食事でも……」
キャンパスを歩けば、拓海は次々に声をかけられる。
拓海はそれらを適当に受け流し、
隣で氷の彫像のように黙り込んでいるエドワードを気にする風でもなく、スマホを弄っていた。
「……君は、相変わらず誰とでも距離が近いな」
押し殺したような声。
「は? 普通だろ」
「普通ではない」
わずかな間。
「君は、無防備すぎる」
さらに低くなる。
「……誰かと過ごすつもりなのか。その、パーティとやらに行くのか」
拓海は面倒くさそうに溜息をつく。
「行かねぇよ、バーカ」
一拍。
「めんどくせぇし」
「俺は寮で適当に過ごすわ。……静かでいいしな」
その言葉に、
エドワードの胸の奥のつかえが、ほんの少しだけほどける。
「そうか」
短く。
「……私は邸に戻る」
そして、言い聞かせるように。
「……だが、そうか。君は寮にいるのだな」
タクミは寮にいる。
静かに。
誰とも過ごさずに。
―本当に?
視界の端で、別の学生が拓海の肩に親しげに手を置く。
「じゃあ二十五日は?」
軽い笑い声。
エドワードの視線が、わずかに揺れた。
二人の空白の二年間。
エドワードの中で、拓海はいつしか、
触れられない場所に置かれた“孤高の存在”へと変わっていた。
だが今、目の前にいるのは違う。
笑う。
話す。
誰かに呼ばれ、誰かの隣に座る。
そして、気づけば中心にいる。
―体温のある、人間。
「……知っていたはずだ」
小さく。
「なのに」
一瞬、言葉が途切れる。
「……これほどだったか」
その内心を、
最後列でポテトを齧る男が、綺麗に見抜いていた。
■ジョージの機密ログ(十二月:祝祭の影)
十二月。光り輝くキャンパス。
僕は、ハミルトン様が
「記憶の中のサエキ」と「目の前のサエキ」の差に、静かに溺れかけているのを見たよ。
サエキ。
君は特別なことをしていない。
ただそこにいるだけで、誰かが手を伸ばしたくなる。
その無自覚な引力が、
今、ハミルトン様の呼吸を乱している。
ハミルトン様。
君は安心したふりをしている。
サエキが誰とも約束をしないと聞いて。
だが本当は―
彼が一人でいるその時間さえ、
誰かに奪われる可能性を恐れている。
祝祭の光は、残酷だ。
明るく照らすほど、
見たくないものまで浮かび上がらせる。
■ジョージ幕間(観測ログ:76-UK・理想と現実の衝突編)
エドワード(主演・美化された過去の囚人):
「……私は間違っていた」
低く、噛み締めるように。
「寄宿学校時代のタクミは、もっと……」
言葉を探す。
「……静かだったはずだ」
ジョージ(観察員):
「それ、君が勝手にそう見てただけだよ(笑)」
肩をすくめる。
「彼は昔からああだ」
「君が隣にいたから、他が見えなかっただけ」
一拍。
「今、やっと“その他大勢の視点”に立ったんだね」
沈黙。
数歩先。
拓海(振り返らずに):
「……おいエド」
「いつまで固まってんだよ」
一瞬だけ間。
「……風邪引くぞ、バカ」
「さっさと帰れよ」
(追記)
ジョージは、その何気ない一言に、
ほんの一瞬だけ―
救われたように表情が緩んだエドワードを見逃さなかった。
「ハミルトン様」
「君がどれだけ彼を理想に閉じ込めたくても」
「君を一番狂わせて、そして生かしているのは―」
「この、生身の彼なんだねw」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




