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第三百二十一話 「勝った後ほど、人は余計なことを言うものである」という話

なんだかんだ面倒見がいい拓海君

十一月後半。試験翌日。講義室。


窓の外は相変わらずの雨。

だが室内は、それ以上に静かだった。


その沈黙が、むしろうるさい。


隣に座る資本主義の魔王が、一言も発さずに前を向いている。


いつもなら「今日の君のネクタイは―」だの「昨夜の星空は―」だの、

頼んでもいない叙事詩を垂れ流す男が、だ。


「……どうした、静かじゃねぇか」


拓海がノートを開きながら、横目で見る。


「……別に」


短い。そして重い。

エドワード・ハミルトンが、明らかに拗ねていた。


「……あー、あれか」


ペンを回す。


「試験」


沈黙。


「数点差で負けたやつ」


「タクミ」


低い声。


「……黙れ。本気で殴るぞ」


だが、勝負師は止まらない。


「いやでもさ」


わざとらしく続ける。


「完璧主義って大変だな」


「全部書いて、時間足りなくなって、結果的に負けるとか―」


一拍。


「……逆に才能じゃねぇの?」


「タクミ」


今度は静かだった。


「それ以上言うなら、本気で殴る」


「やってみろよ」


拓海は肩をすくめる。


「点数で負けたくせに」


「お前のその重すぎる美学、試験じゃただの足かせなんだよ」


「バーカ」


空気が、一瞬で張り詰める。


発火寸前。


「あーあwww」


後方から、場違いに軽い声。


「やめなよ二人とも」


ポテトを齧りながら、ジョージが笑う。


「ハミルトン様は“正しくやって負けた人”、サエキは“ズルく勝った人”」


「綺麗に棲み分けできてるじゃないか」


「言い方ぁ」


拓海が眉をひそめる。


「俺は合理的なだけだ」


「事実だよ」


ジョージは肩をすくめる。


「ハミルトン様、次は負けないって顔してるけど―」


「そのままだと、また同じ罠に沈むよ?」


エドワードは机に手をつき、ゆっくりと言った。


「……次は負けん」


低く、確かに。


「へー」


拓海は興味なさそうに頷く。


「じゃあまず時間配分覚えろ」


「あと―」


ポケットから、くしゃくしゃの紙を放る。


「捨てる勇気な」


「……なんだ、これは」


「捨て問リスト」


沈黙。


エドワードは、その紙を見つめる。


乱雑な字。走り書き。


英国の学術的伝統にも、ハミルトン家の教養にも存在しない、

泥臭い“勝ち方”の記録。


「……くだらん」


吐き捨てる。


一拍。


だが―


その紙は、捨てなかった。


■ジョージの機密ログ(十一月:勝者の余計な一言)


十一月。講義室の定位置。

僕は、サエキが“勝った安心感”で、無駄に口が軽くなる瞬間を見たよ。


サエキ。

君はわざわざ言う必要のないことを、わざわざ言う。

それは余裕か、あるいは確認か。

相手の輪郭を、指でなぞるように。


ハミルトン様。

君は「くだらん」と言った。

でも、その紙を握る指には、これまでにない力がこもっていた。

君は今、初めて―

“流されない方法”を学ぼうとしている。


■ジョージ幕間(観測ログ:75-UK・捨てられない美学編)


十一月。放課後の人気のない廊下。


エドワード(主演・分析する敗北者):


「……設問3、ここで引用を削れば五分短縮できた」


「設問5は……確かに不要だ」


低く呟きながら、“捨て問リスト”を読み込んでいる。


ジョージ(観察員):


「ハミルトン様、それ授業中に読むものじゃないよ(笑)」


写真を撮りながら肩をすくめる。


「でもいいね。ちゃんと負けを分析してる」


「偉い偉い」


「……黙れ」


「それ、サエキに見られたらまた“バカ”って言われるよ?」


数歩先。


拓海(歩きながら):


「……おいエド」


振り返らずに言う。


「いつまでそれ見てんだ」


「……早く行くぞ、バカ」


(追記)


ジョージは、その一言に対して、

ほんの一瞬だけ、エドワードの口角が上がったのを見逃さなかった。


「ハミルトン様」


「君がどれだけ彼を管理しようとしても―

結局、染まってるのは君の方なんだよねw」


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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