第三百二十話 「試験とは、正解を知っている者より、捨てられる者が勝つ」という話
テストが得意な拓海君、真面目に全部考えて墓穴掘るエドワード君
十一月後半。試験当日。
重厚な大講義室。
解答を書き込むペンの音だけが、雨音のように響いていた。
エドワードは、完璧な美学の中にいた。
全範囲を網羅した知識。
一言一句違わぬ定義。
問1に対し、講義録をなぞるだけでは飽き足らず、古典の注釈まで引用する。
それはもはや解答ではなく、ひとつの“作品”だった。
―その時。
(―サッ)
隣で、紙が裏返る音。
拓海が、迷いなく解答用紙を裏返していた。
まだ開始から三十分も経っていない。
エドワードの眉が、わずかに動く。
拓海は止まらない。
設問を一瞥する。
(配点、高い)
(これは罠)
(これは取れる)
判断は一瞬。
難問は、切る。
一秒で捨てる。
その代わり、確実に点になる設問にだけ、
最短距離の論理を叩き込む。
無駄は一切ない。
試験終了のベルが鳴った。
「完璧だ、タクミ」
エドワードは、震える指先をわずかに上げた。
「私は全設問に対し、歴史的背景を含めた完全な論理を構築した」
「君もさぞ、感化されたことだろう」
「……知るか、バカ」
拓海はあくび混じりに答える。
「俺、途中までしか書いてねぇよ」
「つーかお前、最後の方、殴り書きだったろ」
「時間足りてねぇじゃん」
「……っ!」
「それは……構成の美しさを優先した結果であって―!」
結果は、残酷だった。
拓海:高得点。
エドワード:数点下。
「なぜだ……」
掲示板の前で、エドワードが膝をつく。
「知識量も、論考の深さも、私の方が上だったはずだ……!」
■ジョージの機密ログ(十一月:捨てた者の勝利)
十一月。試験後の廊下。
僕は、ハミルトン様が「正しさ」という名の重りに引きずられて沈む瞬間を見たよ。
サエキ。
君は満点を狙わなかった。
合格という“勝ち”だけを狙った。
浪人の二年間で、君が身につけたのは知識じゃない。
「何を捨てるか」だ。
ハミルトン様。
君の敗因は能力じゃない。
君がすべての石を拾い集めている間に、
サエキは石ころを蹴飛ばして、一番大きな宝石だけを持ってゴールした。
「正しいのに負ける」
それが、君がこれから学ぶべき現実だよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:74-UK・罠とプライド編)
エドワード(主演・完璧主義の受難者):
「納得できん!」
答案を握りしめる。
「教授に直談判する! この注釈の正当性を――」
ジョージ(審判員):
「ハミルトン様」
軽く遮る。
「あの問5、配点数点の“罠”だよw時間が余ったやつを引っ掛けるための」
沈黙。
「……は?」
ジョージは、白紙の問5を指差す。
「サエキは見抜いて捨てた」
「君は全力で突っ込んで、時間を失った」
「滑稽だね」
拓海(学食):
「……おいエド」
「いつまで凹んでんだよ、バカ」
少しだけ間を置く。
「……次は段取り組め」
ポケットから、汚いメモを放る。
「貸してやるよ。捨て問リスト」
■(追記)
「やれやれ、だねwwww」
ジョージは、そのメモを“聖遺物”のように受け取り、震えるエドワードを激写した。
「ハミルトン様、君が守ろうとしていたはずの彼が、今
君に“生き残り方”を教えてるんだよ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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