幕間 「幕間とは、便利キャラの身分確認でもある」という話
いつの間にかコイツがいついたせいで話が長くなってる可能性
九月(学食テラス・身分確認)
英国の大学、学食テラス。
冷たい風が石造りの中庭を抜け、紙皿のポテトを容赦なく冷ましていく。
拓海は向かいの席で、何事もない顔でポテトをつまんでいる男をじっと見た。
「……そういやジョージ」
「なに?」
「なんでお前も、そこにいるんだ?」
ジョージは一本だけポテトを持ち上げ、少し考えるふりをした。
「僕? 聴講生。あと君たちの観察員かな」
「帰れ」
拓海は即答した。
ジョージは気にせず続ける。
「だって、君たち二人だけにしたら、この大学たぶん壊れるよ?」
「壊れねぇよ」
「壊れるね」
「壊れねぇ」
「初日で講義棟ひとつ消し飛ぶと思う」
「どういう想定だよ」
そのやり取りを聞きながら、隣のエドワードは優雅に紅茶を置いた。
「ジョージの同行は、私が必要と判断した」
胸を張る姿だけは無駄に堂々としている。
「タクミの生活補助。学内情報の整理。
君が私の愛に当てられて倒れた際の救護。彼には重要な任務がある」
拓海は一瞥して言った。
「一番いらねぇ判断だな、バカ」
「なぜだ!?」
「全部だよ」
ジョージはコーラを飲みながら、二人の間に散る火花を楽しそうに眺めていた。
彼はもはや人物ではない。
この物語をコメディとして成立させるために配置された、安全装置である。
ジョージがいない英国編など、警察沙汰になるか、国際問題になるかの二択だった。
そのことを、拓海も薄々理解し始めていた。
■ジョージの機密ログ(九月:安全装置の矜持)
九月。学術都市のテラス席。
僕は、サエキに存在理由を問われ、ハミルトン様には便利に使われていたよ。
なかなか悪くない立場だね。
サエキ。
君は「帰れ」と言うけれど、僕がいなくなった瞬間、
ハミルトン様の暴走を止める人間がいなくなるだろう?
君が平穏に講義を受けるためには、僕という緩衝材が必要不可欠なんだ。
認めたくないだろうけどね。
ハミルトン様。
君は僕を執事か何かだと思っているけれど。
僕が本当に守っているのは、君の威厳ではなく、
この大学の平和と、サエキの堪忍袋の緒なんだよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:67-UK・便利キャラの矜持編)
九月。学術都市。
エドワード(主演・安全装置の出資者):
「ジョージ! なぜタクミに帰れと言われたのだ!」
学食テラスで憤慨しながら紅茶を飲む。
「私は君の学費も生活費も、すべて“タクミ・サエキ見守り基金”として計上しているというのに!」
「タクミは理解していない! 私の愛を適切に処理できる人間は、この地球上に君しかいないのだぞ!」
ジョージ(基金受領者):
「その説明を本人にしたら、また潜伏生活に戻るよ(笑)」
少し離れた席で、ため息をつきながら教科書を開く拓海を見る。
「あいつ、文句は言ってたけどね。僕がいると少しだけ肩の力が抜けるんだ」
「たぶん、日本から続いている“地続きの日常”が、ここにもあるって分かるからだろうね」
拓海(次の講義へ移動中):
「……クソ。どいつもこいつも自由すぎるだろ、バカ」
荷物を肩に担ぎ直し、早足になる。
「……次の講義は、あいつら巻いて一人で受けてやる」
(追記)
数分後。
エドワードがポテトを喉に詰まらせた。
ジョージが笑うより先に、拓海の手が水のカップを差し出していた。
「……しょうがねぇな、バカ」
ジョージはその光景を見て、静かに笑った。
ハミルトン様。
君がどれだけ彼を孤高の王にしたくても、彼を一番彼らしくさせているのは―
君に呆れながらも、結局世話を焼いてしまう、その面倒見の良さなんだよ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




