幕間 「再会したくない相手ほど、近くにいる」という話
意地でも会いたくないみたいなやつ?
九月初旬(正式渡英と防衛線)
拓海は正式な入学手続きを終え、再び英国の土を踏んだ。
学生寮の鍵を受け取り、狭い部屋に荷物を押し込み、
共同キッチンの説明を半分だけ聞き流す。
窓は小さい。
ベッドは硬い。
シャワーは弱い。
完璧だった。
「……よし」
拓海は深く息を吐く。
「ここから静かに、俺の大学生活を始める」
その瞬間、スマホが震えた。
”タクミ。今日は空が騒がしい。君が来たな?”
「……こっわ」
拓海は反射的にスマホをポケットの最深部へねじ込んだ。
それからの生活は、もはや新入生のものではなかった。
スーパーへ行く時間は毎日変える。
大学構内の下見は夜明け前。
メインストリートは避け、黒塗りの車を見たら即退避。
ハミルトン家の紋章を確認した瞬間、身体が勝手に物陰へ入るまでになっていた。
「普通に会えばいいのに」
ジョージは笑った。
「嫌だ」
拓海は即答した。
決して会いたくないわけではない。
ただ、会った瞬間に生活の主導権を奪われるのが目に見えているだけだ。
その日の夕方。
完璧に尾行を撒いたと確信し、拓海は寮へ戻った。
だが、自室のドアの前に、豪華すぎる花束が置かれていた。
赤、白、青。
どう見ても学生寮に似合わない。
添えられたカードには、一行。
君の部屋番号はまだ知らない。だが近い気がする
拓海は数秒黙り込み、花束を抱えた。
「……引っ越すか」
普通の新入生が履修登録に悩む頃。
佐伯拓海は、対魔王用の避難経路を地図に書き込んでいた。
■ジョージの機密ログ(九月:避難経路の登録)
九月。学生街。
僕は、サエキが講義棟の場所より先に、
ハミルトン様から逃げる裏道を覚えているのを見たよ。
普通の学生はサークル一覧を見る。
彼は監視カメラの死角を確認していた。
努力の方向性が少しおかしいね。
サエキ。
君がどれだけ一般学生を装っても、その身のこなしは熟練の逃亡者だ。
花束を見た時の絶望した顔、額縁に入れたいくらいだったよ。
ハミルトン様。
“部屋番号はまだ知らない”なんて可愛く書いていたけれど。
花束を置いたのが君の執事だって、僕は知ってるよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:64-UK・魔王の包囲網編)
ロンドン・ハミルトン家タウンハウス。
エドワード(主演・嗅覚の鋭い王):
「ジョージ! 街の空気が変わった!」
地図を机いっぱいに広げ、目を輝かせる。
「タクミが、この都市の重力圏内に入った証拠だ!」
「部屋番号が分からぬなら、寮の全室へ花束を送れ!」
「一つくらい当たるだろう!」
ジョージ:
「それはストーカーって言うんだよ(笑)」
拓海(寮の自室):
「……あいつ絶対近くにいるだろ」
ドアの隙間をガムテープで塞ぐ。
「大学って、もっとキラキラしたもんじゃねぇのかよ……バカ」
(追記)
普通の新入生は履修登録をしていた。
サエキだけは、
対エドワード潜伏マニュアル(初版)
を作っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




