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第三百十二話 「最も会いたい者ほど、近くにいるとは思わない」という話

どうにか逃げたい拓海君

五月。ロンドン。

拓海は今、英国某所のサービスアパートメントで、

何事もない顔をして暮らしていた。

九月から始まる大学生活に備え、先に現地へ入り、

生活基盤を整えるための極秘渡英である。


スーパーで買い出しをし、学生街を歩き、安いサンドイッチを齧る。

寮の下見をし、銀行口座の手続きをし、地図アプリを見ながら何度も道に迷う。


穏やかで地味な日常だった。

その裏で、拓海のスマホは壊れかけていた。


通知 82件。


すべてエドワードからだった。


いつ来る?

生きているのか?

住所を送れ。

気温はどうだ?

今、何を食べている?

返信しろ。

既読だけでもつけろ。

タクミ。


「……こっわ」


拓海はスマホを伏せた。

向かいでポテトをつまんでいたジョージが肩をすくめる。


「いい加減、連絡してあげなよ。ハミルトン様、

昨日ちょっと泣きそうだったよ」


「ばれたら死ぬ」


即答だった。


「あいつ、居場所分かった瞬間ここ来るぞ。車で。使用人付きで。花束持って」


「そこまでかなあ」


「そこまでだよ!」


拓海は断言した。


会いたくないわけじゃない。

むしろ、少しは会いたい。

でも一度主導権を渡したら最後、九月まで全部あいつのペースになる。


それだけは避けたかった。


その時だった。


ジョージがふと窓の外を見て、固まる。


「……サエキ」


「ん?」


「あれ、ハミルトン家の車じゃない?」


拓海の動きが止まった。


通りの向こうを、見覚えのある紋章入りの黒塗りの車がゆっくり走っていく。

同時にスマホが震えた。


”君の近くにいる気がする”


「……」


拓海は無言で電源を落とした。


そしてジョージを見た。


「携帯捨てろ」


「なんで僕!?」


「今すぐだ」


二人は席を立ち、サンドイッチを持ったまま裏口から逃げた。


ロンドンの五月は、よく晴れていた。


■ジョージの機密ログ(五月:十五分の距離)


僕は、ハミルトン様が“会えない悲劇の主人公”を演じているその頃、

サエキが徒歩十五分圏内でハムサンドを食べているのを見たよ。


魔王は孤独にワインを飲み、

相棒は特売のミールディールで節約している。


世界は不公平だね。


ハミルトン様。

君は空港記録や連絡履歴を追っているけれど、

サエキはもう君と同じ街の空気を吸っている。


しかも、わりと元気だ。


サエキ。

君の逃走劇も、そろそろ限界だよ。

ハミルトン様、勘だけは妙に鋭いからね。


■ジョージ幕間(観測ログ:62-UK・魔王の直感編)


ロンドン・ハミルトン家タウンハウス。


エドワード(主演・情緒不安定な魔王):


「ジョージ! 繋がらん!」


「だが感じる……!」


窓を開け、風を吸い込む。


「この街のどこかに、タクミの“バカ”という気配がある!」


「監視カメラを確認しろ!」


ジョージ(電話越し):


「それは禁断症状だよ(笑)」


目の前では、拓海が物陰にしゃがみ込み、


“声出すな”と全力でジェスチャーしていた。


拓海(路地裏):


「……なんで鼻利くんだよ、犬かよ!!絶対、九月まで見つからねぇからな……!」


(追記)


車が通り過ぎたあと、拓海はその場に座り込んだ。


「あっぶねぇ……」


ジョージはその姿を見て笑った。


「ハミルトン様。君がどれだけ彼を愛で包み込みたくても――

彼を一番俊敏にしているのは、

君から全力で逃げる時のサバイバル本能なんだよ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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