第三百九話 「戦友の結果とは、自分の合否とは別の意味で怖いものである」という話
佐藤君もおめでとう?
三月。
国立大学の合格発表日。
拓海は、自分の発表の時以上に険しい顔でスマホを睨んでいた。
「……佐藤から連絡がねぇ」
何度も画面を見る。
更新する。
また見る。
ようやく、一通届いた。
第一志望は落ちた。
第二志望に行く。
……でも、終わりじゃない。
拓海は三秒ほど黙り、スマホを握りしめた。
「……そうか」
小さく息を吐く。
「……アイツ、逃げなかったんだな」
数分後。
拓海は佐藤を近くの公園へ呼び出した。
現れた佐藤は、少しだけ目が赤かった。
それでも、眼鏡の奥の目は死んでいなかった。
「……サエキ」
「僕は、この四年で君を追い抜くよ」
拓海は鼻で笑う。
「当たり前だろ、バカ」
「俺が向こうでモタついてる間に、さっさと化けろ」
そう言って、肩を思い切り叩いた。
佐藤が少しよろける。
「痛いね」
「うるせぇ」
■ジョージの機密ログ(三月:戦友たちの航路)
夕暮れの公園で、僕は二人の若者が、それぞれ違う春を背負って立っているのを見たよ。
佐藤君。
第一志望には届かなかった。
でも君は、負けた場所に座り込まなかったね。
その悔しさは、きっと何より強い燃料になる。
サエキ。
君は自分の成功より、友人の立ち上がり方に胸を打たれていた。
そういうところ、嫌いじゃないよ。
ハミルトン様。
君の相棒を強くしたのは、英国式教育だけじゃない。
隣で歯を食いしばっていた、普通の少年の存在だよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:57-TOKYO・佐藤の宣戦布告編)
エドワード(英国・残留組):
「ふん。挫折を知った男か」
「悪くない」
「タクミのライバルとして覚えておこう」
一拍。
「学費援助はどうだ」
ジョージ(日本・特派員):
「やめて(笑)」
「その友情に君のお金を混ぜないで」
拓海(帰宅後):
「……佐藤」
「四年後、化けてなかったら眼鏡割るぞ、バカ」
荷造りをしながら、少し笑っていた。
(追記)
「やっと終わったねぇw」
ジョージは、公園のベンチで二人並んで缶コーヒーを飲み干す姿を見ていた。
「……不味いな」
「バーカ」
笑い合う声は、春の冷たい風にすぐ消えた。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を自分のものにしたくても。
彼を“佐伯拓海”でいさせるのは―
敗北を知る友と分け合った、この苦い一本なんだよ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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