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第三百八話 「結果とは、たった一文で二年を肯定も否定もするものである」という話

やっと予備校片が終わるーーワーイヽ(゜∀゜)メ(゜∀゜)メ(゜∀゜)ノワーイ

三月。合格発表当日。

佐伯家のリビングには、朝だというのに妙な静けさがあった。


テレビは消され、湯気の立つ茶も誰も手をつけていない。

時計の針の音だけが、やけに大きい。


拓海はノートPCの前に座ったまま、微動だにしなかった。


画面には、結果確認ページ。

必要事項はすべて入力済み。


あとは、最後のボタンを押すだけだった。


「……拓海」


父が新聞も開かずに言う。


「開け」


母は台所から顔だけ出して、いつもより静かな声で続けた。


「見ないことには、何も始まらないわよ」


拓海は唇を噛んだ。


「……分かってる」


掠れた声だった。


「分かってるよ、バカ……」


マウスを持つ手が、震えていた。


その時、ジョージのスマホが鳴った。

着信相手を見た瞬間、彼は深く目を閉じる。


「……ああ、うん。やっぱり君か」


数秒聞いたあと、ため息混じりに顔を上げた。


「ハミルトン様が、英国で祝砲を上げろって暴れてる」


一拍。


「……おめでとう、サエキ。向こうは、もう確信してるよ」


真鍋さんは隣でタブレットを閉じた。


「想定通りです」


「手続き書類の準備を始めます」


誰も止まらない。

世界だけが先へ進んでいく。


置いていかれているのは、自分だけだった。


拓海は息を吸い、ボタンを押した。


画面が切り替わる。


数秒。


たった数秒が、二年より長く感じた。


やがて、中央に文字が現れる。


CONGRATULATIONS


拓海は、すぐには意味を理解できなかった。


瞬きを二度。

三度。


喉が鳴る。


肩から、何かが落ちた。


「……っ」


声にならない。


次の瞬間、椅子ごと後ろへ倒れ込み、そのまま笑った。


笑いながら、泣いていた。


「……っしゃあ……!」


ようやく絞り出した声は、掠れていた。


「見たか……バカ……」


顔を覆い、何度も頷く。


「二年だ」


「……二年、かかったぞ」


その言葉だけが、やけに静かに部屋へ落ちた。


母が泣いた。

父は一度だけ、大きく息を吐いた。


真鍋さんだけが、淡々とペンを走らせていた。


■ジョージの機密ログ(三月:二年の重み)


僕は、サエキが歓声より先に崩れ落ちるのを見たよ。

勝った人間は、もっと派手に喜ぶものだと思っていた。


でも彼が最初にしたのは、叫ぶことじゃなかった。

やっと終わったと、身体で理解することだった。


サエキ。


君が二年間積み上げたものは、学力だけじゃない。


逃げたい夜を越える方法。

泣き言を消して、朝また座る方法。

負けそうな自分を、引きずってでも前へ出す方法だ。


その全部が、今、報われたんだね。


■ジョージ幕間(観測ログ:56-UK・騒ぐ王、笑う凡人)


エドワード:


「当然だ!」


「私が見込んだ男だぞ!」


「ロンドン中に号外を――」


使用人:


「エドワード様、近隣迷惑です」


拓海は床に座ったまま、スマホを受け取り、短く打った。


買収いらなくなったな、バーカ

送信して、また笑った。


(追記)


あとで履歴を見たら、深夜二時の裏垢の投稿は全部消えていた。

代わりに、新しく一つだけ残っていた。


”うれし。ねる。”


それだけだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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