第三百七話 「試験後とは、別の敗北感に襲われる時期でもある」という話
拓海君も不器用?
二月中旬。
試験から数日が過ぎた。
結果が出るまでの時間が、妙に長い。
家にいても落ち着かない拓海は、一人で街へ出た。
思っていたより風が冷たく、逃げ込むように近くのカフェへ入る。
コーヒーを手に空席を探した、その時だった。
「あ、佐伯くん……だよね?」
そこにいたのは、高坂くんだった。
拓海の動きが止まる。
「外国の大学受けたんでしょ? すごいよね」
「試験、もう終わったの?」
一点の曇りもない笑顔だった。
そして、何気ない声で続ける。
「そういえば、なっちゃんがお正月にLINEしてたけど、
返事来なかったって心配してたよ」
「風邪とか引いてないといいなって」
拓海は喉の奥が詰まるのを感じた。
「あ……いや、ちょっと忙しくて」
「ああ、そっか。大変だったよね」
「僕たちの受験より、ずっと大変そうだもんね。
落ち着いたら返してあげてよ。きっと喜ぶから」
「あ、はい……すいません」
思わず敬語で謝ってしまった。
高坂くんは笑う。
「僕に謝らなくていいよ」
遠くで大学の友人たちが彼を呼ぶ声がした。
「あ、じゃあ。またね」
「元気そうだったって、なっちゃんにも言っとく」
爽やかに手を振って、高坂くんは去っていった。
一人残された拓海は、冷めかけたコーヒーを見つめた。
こいつ、いい奴すぎるだろ。
ちゃんとしてる。
感じもいい。
菜摘と似合う。
……何なんだよ。
そして何より、
菜摘が連絡をくれていたことすら、今まで頭から抜け落ちていた自分に、強い自己嫌悪を覚えた。
■ジョージの機密ログ(二月:光の中の敗北)
二月。街角のカフェ。
僕は、サエキが高坂BOYという名の“正しさ”に焼かれているのを見たよ。
サエキ。
君は理不尽には強い。
でも、悪意のない優しさには弱いんだね。
高坂くんは責めなかった。
怒らなかった。
ただ理解して、笑ってくれた。
だからこそ、君の罪悪感は深く刺さった。
ハミルトン様。
君の相棒は今、試験結果より重いものに負けかけている。
それは、一人の青年の善意と、返しそびれた連絡だよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:53-TOKYO・高坂の衝撃編)
エドワード(英国・残留組):
「なんだその男は」
「タクミに敬語を使わせただと?」
「私ですら苦労しているのに」
一拍。
「……調べろ」
「ただの善人?」
「余計に厄介だ」
ジョージ(日本・特派員):
「そうなんだよ(笑)」
「高坂くん、本当にいい奴なんだ」
「サエキ、店を出てからずっとLINE画面見て固まってるよ」
「今さら何て返せばいいか分からないみたいだね」
拓海(駅のホーム):
おめでとう
……遅くなってごめん
……悪かった
「……違う」
「あー、クソ。バカ」
夕暮れのホームで、一人頭を抱える。
(追記)
「あーあwwww」
ジョージは、ようやく
サンキュ。受かったら飯おごる
と打ち込み、また送れず閉じたサエキを見て笑った。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を囲い込みたくても。
彼を一番揺らしているのは―
返し忘れた一通のLINEと、取り返しのつかない小さな後悔なんだよね」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




