第三百六話 「励ましとは、時に受験生の情緒を破壊するものである」という話
拓海本番
二月初旬。最終試験当日の朝。
駅へ向かう拓海の手は、寒さと緊張で冷え切っていた。
その時、スマホが震えた。
エドワードからのメッセージ。
タクミ。安心しろ。
もし不合格なら、その大学ごと買い取って特別枠を作ってやる。
何も恐れる必要はない。
拓海は三秒ほど停止した。
それから、震える声で言った。
「……殺す」
一拍。
「……絶対に、殺す」
隣でジョージが即座に頭を下げる。
「ごめん、サエキ。僕も全力で止めたんだけど」
「ハミルトン様、“安心材料を提示しただけだ”って聞かなくて」
拓海の目から緊張が消えた。
代わりに、真っ赤な怒りだけが残った。
「あいつの金なんて一円も使わせねぇ」
「絶対受かって、正規ルートで入ってやる」
「見てろよ、バカ!」
最低で、最高の起爆剤だった。
さらに追撃が届く。
受かったら買収は不要だな
拓海は一言だけ返した。
黙れ
そのまま試験会場へ向かった。
■ジョージの機密ログ(二月:資本主義の激励)
二月。試験会場前。
僕は、サエキが“殺意”という最強のエネルギーで門をくぐっていくのを見たよ。
ハミルトン様は、逃げ道を作ったつもりなんだろうね。
でもサエキという男は、逃げ道を見せられると、まず爆破する。
それでこそ本気になるんだ。
ハミルトン様。
君の愛情は、時々ただの災害だよ。
でも、その災害が彼を前へ押し出してしまうんだから、
君たちは本当に面倒くさい名コンビだ。
■ジョージ幕間(観測ログ:52-UK・買収計画の頓挫編)
エドワード(主演・無自覚な暴君):
「なぜ怒る」
「万が一への備えを用意するのは当然だろう」
資料を閉じる。
「……では合格祝いに、大学へ私の名を冠した記念館を寄贈する」
ジョージ(日本・特派員):
「それも全力で拒否されるよ(笑)」
「サエキ、試験終わったあと笑ってた」
「君への怒りで、最後まで正気を保てたみたいだね」
拓海(試験終了後):
「……ふぅ」
「……出し切った」
「これで落ちて買収なんかされたら、一生の恥だ、バカ」
夕焼けを見上げ、ようやく肩の力を抜く。
(追記)
「あーあwwww」
ジョージは、試験後しばらく画面を見つめ、
受かったら飯おごれ、バカ
と打って消し、
終わった
だけ送ったサエキを見ていた。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を守りたくても。
彼を一番強く立たせているのは――
君の庇護を拒み、自分の力だけで君の隣に立とうとする意地なんだよ(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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