第三百五話 「余裕ある者の笑顔ほど、追い込まれた者には腹立たしい」という話
エドワード君、それはダメだってwww
一月下旬。深夜。
拓海は自習室から帰宅し、そのまま机に向かっていた。
過去問。
赤ペン。
冷めたコーヒー。
乾いた目。
カフェインはとっくに切れ、集中力もほぼ死んでいる。
それでも、止まれなかった。
その時、スマホが震えた。
画面には、英国の魔王からの動画通話通知。
拓海は嫌な予感しかしないまま、通話を取った。
画面いっぱいに、余裕が広がった。
暖炉。
グラス。
シャンパン。
そして、満面の笑みのエドワード。
「タクミ!」
「最終結果が出た!」
「私は決まったぞ。合格だ!」
「早く来い♡」
拓海は三秒、完全に停止した。
それから低い声で言った。
「……てめぇ」
「今このタイミングで、マウント取りに来たのかよ」
一拍。
「死ね、バカ」
通話を切った。
英国では、魔王が困惑していた。
日本では、ジョージが頭を抱えていた。
「だから今はダメだって言ったよね……(笑)」
拓海はスマホを布団へ投げ、もう一度ペンを握る。
「……絶対受かって」
「あのバカの顔面に合格通知叩きつけてやる」
怒りが、最後の燃料になった。
■ジョージの機密ログ(一月:最悪のタイミング)
一月。深夜の東京。
僕は、サエキの部屋の空気が、一瞬で戦争に変わるのを感じたよ。
ハミルトン様。
君の合格は素晴らしいニュースだ。
でも、一秒を削って戦っている男に、
暖炉とシャンパンと笑顔を同時に見せるのは、かなり危険だよ。
君が純粋に呼んだとしても、今のサエキには挑発にしか見えない。
サエキ。
君の「死ね、バカ」は、ここ数か月の疲労と殺意が見事に圧縮されていたね。
でも、その一言で目が覚めたのなら、あの魔王も少しは役に立ったのかな。
■ジョージ幕間(観測ログ:51-UK・魔王の困惑編)
エドワード(主演・無自覚な加害者):
「なぜだ!」
「なぜタクミは怒って切った!」
「私は再会の喜びを伝えただけだぞ!」
一拍。
「……背景の演出が足りなかったか?」
ジョージ(日本・特派員):
「そこじゃないよ(笑)」
「サエキ、今この瞬間も眠気と戦ってるんだ」
「君の“キラキラした余裕”が一番刺さるんだよ」
拓海(自室):
「……覚えてろよ、バカ」
「英国行ったら、そのシャンパン全部プロテインに替えてやる」
そう呟いて、再び英文を睨みつける。
(追記)
「あー、やれやれ、困ったねぇ」
ジョージは、通話のあと、
”おめでとう、バーカ”
と打ち込み、数秒見つめてから消したサエキを知っている。
「ハミルトン様。君がどれだけ愛を伝えたくても。
彼を一番走らせているのは―
君に負けたくないという、子供みたいで最強の対抗心なんだよね(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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