第三百三話 「本番とは、敗北を知る者ほど静かに向かう場所である」という話
GWがあと二日で終わる―(´;ω;`)
一月中旬。共通テスト当日。
去年、この場所で佐藤はあと数点に泣いた。
その背中を、拓海は隣で見てきた。
今年。
自分は受けない試験なのに、拓海は佐藤を会場まで送ってきていた。
本人より険しい顔で。
門の前。
佐藤は去年よりずっと静かな顔で立っていた。
「サエキ」
「……僕は去年、ここで一度死んだ」
一拍。
「今日は、生き返りにいくよ」
拓海は短く頷いた。
「ああ」
「マークミスしたら首絞めろって言ったな。忘れてねぇぞ」
「……でも、お前なら大丈夫だ、バーカw全部叩き伏せてこい」
拓海の掌が、佐藤の背中を強く打った。
その音は、門の前にいたどの励ましよりも鋭く、力強かった。
佐藤は少しだけ笑った。
「君の応援、雑なんだよ」
そう言って、試験会場へ消えていった。
並木道の陰で、ジョージが隣に立つ。
「サエキ。友人が戦う姿を見るのは、自分が受けるより疲れるかい?」
拓海は答えなかった。
ただ、佐藤が消えた入口を睨みつけたまま言う。
「……あいつは負けねぇよ」
「負けを知ってる奴が、一番強い」
「それを、あいつ自身が証明するはずだ」
自分の本番は二月。
拓海は友人の戦場に、自分の覚悟を重ねていた。
■ジョージの機密ログ(一月:他者の戦い)
一月。試験会場前。
僕は、サエキが佐藤君を見送ったあと、自分の拳を強く握っているのを見たよ。
サエキ。
君は受験しない今日ですら、まるで自分のことのように緊張していたね。
佐藤君の再挑戦は、君にとっても、この一年が間違っていなかったと証明する儀式なんだ。
不器用な祈りだった。
でも、きっと一番届く祈りだよ。
ハミルトン様。
君の相棒は今、英国の未来ではなく、日本で泥だらけに戦う友人の背中を見ている。
そういう絆が、人を王にするんだ。
■ジョージ幕間(観測ログ:49-TOKYO・佐藤の出陣編)
エドワード(英国・残留組):
「ふん。他人の試験に付き合うとは、相変わらずお節介な男だ」
一拍。
「……だが、佐藤は勝て」
「タクミの気分が沈む」
ジョージ(日本・特派員):
「素直じゃないね(笑)」
「サエキ、見送ったあとすぐ自習室へ戻ったよ」
「友人の戦いで、自分の刃まで研がれたみたいだ」
拓海(自習室):
「……佐藤」
「しくじるなよ、バカ」
そう呟いて、同じ時刻に自分も英文解釈を開いた。
(追記)
ジョージは、誰もいない方向へ一度だけ、
勝てよ
と零したサエキを記憶した。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を孤高にしたくても。
彼を一番強くしているのは―
地獄を一緒に見た戦友への、青臭いほど真っ直ぐな信頼なんだよね(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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