幕間 「正月とは、去年と同じ景色が少し違って見える季節である」という話
寝ても寝てもねむい(´ぅω・`)
一月一日。
菜摘の家の神社は、今年も参拝客で溢れかえっていた。
巫女姿の菜摘は、お守りの授与所で忙しなく立ち働いている。
その隣には、今年も高坂くんがいた。
去年と同じように自然で、去年と同じように手際がいい。
誰に言われるでもなく、人の流れを見て動き、重い荷物を運び、
菜摘の負担を先回りして減らしていく。
去年と同じ景色だった。
でも、菜摘の視線だけが違った。
参拝客の波の向こう。
背の高い男の後ろ姿。
少し乱暴な歩き方。
そのたびに指先がわずかに止まる。
けれど、どれも違う。
”拓海は、ここには来ない”。
それを分かっていながら、探してしまう自分を、菜摘はもう誤魔化せなかった。
「菜摘ちゃん、寒いでしょ。少し休んでおいで」
高坂くんが、湯気の立つ紙コップを差し出す。
「こっちはやっとくから」
完璧だった。
優しくて、自然で、何も間違っていない。
だからこそ、菜摘の心は行き場を失って揺れた。
仕事帰り。
冷え切った指で、菜摘はスマホを開いた。
『あけましておめでとう』
送信。
画面を見つめる。
既読は、つかない。
拓海は今、別の場所で戦っている。
■ジョージの機密ログ(一月:神社の交差点)
一月。神社の裏手。
僕は、菜摘ちゃんが高坂BOYの優しさに包まれながら、
ずっと人混みの奥を見ているのを知っているよ。
菜摘ちゃん。
君が待っているのは、去年この場所で、
何も言わず帰っていった不器用な背中なんだね。
勇気を出して送ったその一行は、今のサエキにはあまりにも“日常”すぎる。
彼は今、その日常ごと切り離して走っている。
ハミルトン様。
君の相棒は、一人の女の子の願いを置いたまま、君の待つ場所へ進んでいるよ。
でも置いてきたものほど、あとで大きな音を立てるものなんだ。
■ジョージ幕間(観測ログ:47-TOKYO・一月の既読スルー編)
エドワード(英国・残留組):
報告を受け、冷たく言い放つ。
「当然だ」
「タクミが感傷に付き合っている暇などない」
「私の元へ来るための時間は、一秒たりとも無駄にできん」
一拍。
「……だが、その高坂という男への監視は強めろ」
ジョージ(日本・特派員):
「それはもう僕の職務外だよ(笑)」
「サエキ、通知には気づいてるみたいだけどね」
「今はスマホを真鍋さんに預けて、自習室に籠城中だ」
拓海(自習室):
「……よし、あと一問」
「一月は、全部捨てて勝つ」
スマホの震えも知らず、深夜二時までペンを走らせる。
(追記)
「あーあ……」
ジョージは、高坂くんから受け取った温かいお茶を持ったまま、
スマホをポケットへしまう菜摘ちゃんを見送った。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を孤高の王にしたくても。
彼を一番寂しい怪物にしているのは、君の教育じゃなく――
待っている人がいることを、今は切り捨てなければならない現実なんだよ。(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




