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第二百九十九話 「優しさとは、正しいのに心を決めきれないことがある」という話

雪森には女心がわからぬ・・・・

だからこれが正しいのか悪いのかもわからぬ・・・

十二月。夕暮れのカフェ。

窓の外では、早くも街の灯りが滲み始めていた。


菜摘は、高坂くんと向かい合って座っていた。

高坂くんは、いつものように穏やかに話してくれる。

声は柔らかく、言葉は丁寧で、気遣いも自然だった。


ここには、不安もない。

気まずさもない。

誰かに振り回される疲れもない。


たぶん、こういう人といる時間を、幸せって言うんだろう。


ふと、窓の外へ目を向ける。

厚手のコートを着込み、参考書を抱えて足早に歩く受験生の姿。

無意識に、一人の顔が脳裏をよぎった。


「なっちゃん? どうしたの?」


高坂くんが、少し首を傾げる。


「ん? ううん、なんでもないよ。それより、さっきの話なんだけどね」


笑って誤魔化しながら、菜摘はテーブルの下でスマホを握りしめた。


LINEの友達リスト。

そこにある名前へ、指を伸ばしかけて―止める。

今さら、何て送ればいいんだろう。


【帰り道】

駅までの歩道。

冬の風が、不意に首筋を撫でた。


「菜摘ちゃん、寒くない?」


高坂くんが歩幅を緩める。


「風邪ひかないようにね」


そう言って、そっとストールの位置を直してくれる。


優しい。

本当に、正しい優しさだった。


その瞬間。

脳裏を支配したのは、別の光景だった。


「……ほらよ!

ちゃんと着ろよ。風邪ひくぞ、バカ」


ぶっきらぼうに、自分の上着を投げつけてきた男。

乱暴で、雑で、言い方も最低で。


なのに、どうしてあの時の温度だけは、今も忘れられない。


高坂くんは正解だ。

拓海は、いつまでも未解決な問題だった。


差し出された手に。

どうしても、自分の指を重ねきれなかった。


■ジョージの機密ログ(十二月:残像の熱)

十二月。冬の街角。


僕は、菜摘ちゃんが穏やかな幸福の中にいながら、

心だけは遠い場所にいる誰かを追っているのを見たよ。


菜摘ちゃん。

君の隣にいる高坂BOYは、君を傷つけない。

たぶん、ちゃんと幸せにしてくれる。


でもね。


君が忘れられないのは、君の心に土足で入り込んで、

何も残さず走り去っていった、あの不器用な嵐なんだろうね。


ハミルトン様。

君の相棒は今、日本に一人、答えの出ない恋を置いたまま前だけを向いて走っているよ。


■ジョージ幕間(観測ログ:42-TRAVEL・残像編)


エドワード(英国・残留組):

「当然だ」

「タクミという劇薬を知った後で、凡庸な男の優しさに満足できるはずがない」


英国の書斎で、一人傲慢に頷く。


ジョージ(日本・特派員):

「ハミルトン様。残酷なこと言うね(笑)」

「菜摘ちゃん、高坂君の前で、一瞬だけすごく寂しそうな顔をしていたよ」

「サエキ。君は本当に、罪な男だね」


拓海(自習室):

「……ハクションッ!」

「……誰だよ。俺の悪口言ってんのは……」

そう呟きながら、何も知らず過去問を解き続けた。


(追記)

「なんだろうねぇw」


ジョージは、高坂くんから受け取ったホットドリンクを両手で包みながら、

どこか遠くを見つめていた菜摘ちゃんを激写した。


「ハミルトン様。君がどれだけ彼を独占したくても。


彼を一番引き止めているのは、君の誘惑じゃなく―

彼を忘れられないまま、前へ進けない女の子の沈黙なんだよ。バカ(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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