第二百九十七話 「受験とは、家族全員が少しだけ落ち着きを失う行事である」という話
僕はいまだにweb面談って慣れないなー
面接前夜。佐伯家、拓海の部屋。
拓海はPCの前で、慣れないネクタイと格闘していた。
「っ、これ……首絞まるんだけど?」
何度結んでも、首吊り未遂みたいな形にしかならない。
そこへ真鍋さんが現れ、淡々と機材チェックを始めた。
「拓海君。カメラ位置は目線の高さで」
「背景は白壁推奨です。余計なものは映さないように」
拓海はネクタイを睨んだまま吐き捨てる。
「受験って何なんだよ……」
「ラグビーの試合の方が、よっぽどシンプルだわ」
【英国側:通信回線の向こうの魔王】
エドワードからの通知は、もはやテロに近い頻度で届いていた。
『姿勢を正せ』
『第一声は腹から声を出せ』
『背景に私の肖像画を置く計画はどうなった』
『タクミ、返信しろ』
拓海は無言でスマホを伏せた。
「通知切れ」
「あいつ、一生正座して待ってろ。バカ」
【面接直前:騒がしい廊下】
「拓海、髪が跳ねてるわよ!」
母が鏡を押しつける。
「肩の力抜け」
父が低い声で言い残す。
真鍋さんは最後に一言。
「通信速度、良好です」
拓海は深く息を吐いた。
「……一番うるせぇ日だな、今日」
画面が点灯する。
面接官の顔が映った。
『Hello, Takumi.』
その瞬間。
拓海の中で、何かが切り替わった。
背筋が伸びる。
視線が定まる。
声が落ち着く。
「Hello. It's my pleasure to meet you today.」
流暢な英語。
淀みのない受け答え。
普段は雑な男が、勝負所でだけ牙を研ぎ澄ませる。
それは、誰より近くで見てきた者たちだけが知る、佐伯拓海という人間の本質だった。
■ジョージの機密ログ(十二月:スクリーンの向こう側)
十二月。佐伯家の廊下。
僕は、ドアの隙間から、サエキが完璧な英語で面接官を圧倒しているのを見守っているよ。
サエキ。
君の勝負強さは、どれだけ「面倒だ」と口にしても隠しきれない天賦の才だね。
ハミルトン様。
君は今ごろ、英国で全裸正座くらいの気合で待機しているだろうけれど。
安心しなよ。
君の相棒は、君の期待を一ミリも裏切っていないよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:40-TOKYO・オンライン決戦編)
エドワード(英国・残留組):
ジョージからの
”拓海、面接開始。完璧だ”
という報告を受け、誇らしげに胸を張る。
「当然だ」
「……私のタクミが、画面越しの面接官ごときに気圧されるはずがない」
一拍。
「だがジョージ。ネクタイが歪んでいたら即座に画面へ乱入して直せ」
ジョージ(日本・特派員):
「そんなことしたら不合格だよ(笑)」
「サエキ、“君の志向は非常にユニークだ”って高く評価されていたよ」
「君は本当に、本番に強い男だね」
拓海(面接終了後):
「……あー、疲れた!!」
「ネクタイ外せ!!」
「飯だ!! 飯持ってこい!!」
一瞬で野性児に戻った。
(追記)
ジョージは、面接終了直後、PCを勢いよく閉じ、
「あと野となれ山となれ!! バーカ!!」
と叫ぶサエキを激写した。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を気高く見せたくても。
彼を一番解放しているのは、君の賞賛じゃなく―
やりきった後に、いつもの雑な自分へ戻れる瞬間なんだよ。バカ(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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