二百九十六話 「可能性とは、愚かな者にだけ確定事項として扱われるものである」という話
先走るエドワード
英国、ハミルトン本邸。
ジョージから、
『サエキ、面接で渡英の可能性あり』
という一報が届いた瞬間、エドワードの動きが止まった。
紅茶を持つ手が止まり、視線が宙で固定される。
使用人たちは、嫌な予感しかしなかった。
数秒の沈黙。
そして次の瞬間、屋敷中に怒号が響き渡る。
「総員起こせ!! ハミルトン家の全リソースを投入するぞ!!」
使用人たちは、静かに顔を覆った。
【中盤:暴走祭りの開幕】
まだ決まってもいない「来客」のために、エドワードは執務室でペンを叩きつけた。
空港送迎計画
第1から第3導線まで完璧にシミュレーション済み。
到着ゲートから車寄せまで、最短・最良・最美ルートを策定。
客室全面改装
タクミの好みに合わせ、
英国の伝統と機能性の融合
をテーマに、壁紙から張り替え開始。
歓迎メニュー
料理長以下シェフ総動員。
「パサパサしない最高級フィッシュ・アンド・チップス」の開発に成功。
第一声練習
鏡の前で、
「よく来たな、タクミ」
「待っていたぞ、マイ・パートナー」
「遅い。罰として抱きしめる」
まで含め、百パターンを試行。
使用人たちは、誰一人として感想を言わなかった。
【一方、日本:事務処理の現実】
十月末。
結論は、思ったよりあっさり出た。
佐伯家のリビング。
真鍋さんがタブレットを確認し、淡々と告げる。
「拓海君。面接はオンラインになりました」
拓海は三秒固まり、次の瞬間、心の底から叫んだ。
「……っしゃーーー!!」
一泊
「助かった!! 英国まで行く体力なんて残ってねぇよ!!」
母は苦笑し、父は新聞の陰で小さく頷いた。
■ジョージの機密ログ(十一月:瓦解した再会計画)
十一月。日本のカフェ。
僕は、サエキが「オンライン万歳!」とガッツポーズするのを確認して、
英国へ冷徹な一通を送ったよ。
『ハミルトン様。タクミ、来なくなったよ(笑)』
沈黙。
数秒後、英国から届いた返信は、文字すら震えていた。
『なぜだ!!』
『空港第3導線まで完成していたのだぞ!!』
『薔薇一万本はどうする!!』
サエキ。
君が日本で面接対策を練っている間に。
英国では、君への愛という名のシャンデリアが、物理的に一個砕け散ったよ。
■ジョージ幕間(観測ログ:39-UK・可能性の残骸編)
十一月。英国、ハミルトン本邸。
エドワード(主演・絶望の魔王)
「世界は私に厳しすぎる……」
「タクミをこの手で迎え入れるために、
近隣のホテルごと買い取って待機していたというのに……」
使用人が静かに告げる。
「エドワード様。今年も日本行きは却下、ならびにタクミ様の渡英もなしです」
「追撃まであるのか……」
ジョージ(日本・特派員)
いやー、ハミルトン様。本気を出しすぎなんだよ(笑)」
「サエキ、“PCのカメラ位置どうすればいいんだ?”って、
至極まっとうな悩みに集中してるよ」
「君の結婚式並みの準備なんて、一ミリも想像してないよ」
拓海(日本・予備校)
「……なんか、英国の方角から地鳴りみてぇな怨念を感じるわ……」
そう呟きながら、震える手でカメラテストを始めた。
(追記)
ジョージは、エドワードから追加で届いた、
『オンライン面接なら、背景を私の肖像画にしろ』
という、もはや妨害工作でしかない追撃メールを激写した。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼と繋がっていたくても。
彼が今一番欲しているのは、君の豪華な送迎車じゃなく―
安定したWi-Fi環境と、君からの通知を切る設定なんだよ。(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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