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第二百九十四話 「正しい道とは、進んでいる本人ほど分からなくなる」という話

拓海君結構追い詰められてそうっすね

九月。

夏の熱気は少しだけ引き、夜風に秋の気配が混ざり始めていた。


模試の結果はA判定。

少し前まで、喉から手が出るほど欲しかった評価。

それなのに、嬉しいとは思えなかった。


隣には佐藤がいる。

去年まで、模試ではずっと上位常連だった男。

けれど、落ちた。


結果が良くても、届かないことはある。

日本と海外では、試験の形も、評価のされ方も違う。


今ここで積み上げているものが、

本当に向こうで通用するのか。

この一年は、正しかったのか。


今でも思う。

あのまま英国に残っていれば、

もっと簡単だったんじゃないかと。


菜摘からの連絡は来なくなった。

高坂がそばにいると、ジョージが言っていた。


気にならないと言えば、嘘になる。


けれど今の拓海には、

誰かを想う余白がなかった。


いっそ全部やめてしまえばいい。


大学へ行けと言うなら、日本で進学したっていい。

今なら、そこそこいい所も狙えるだろう。

そのままここで、生きていけばいい。


そう思うたび、胸の奥が少しだけ苦くなる。


帰宅すると、母が台所から声をかけた。

「拓海、ご飯できてるよ」


父は新聞を畳み、何気ない顔で言う。

「最近、顔きついぞ」


拓海は鞄を置いたまま答えた。

「……別に」


父はそれ以上、何も聞かなかった。

ただ一言だけ、静かに言った。

「迷ってんなら、まだちゃんと考えてるってことだ」


その夜。

机に向かいながら、拓海は小さく呟いた。


「……分かんねぇよ」


誰にも聞こえない声だった。

答えてくれる相手は、ここにはいなかった。


■ジョージの機密ログ(九月:深夜の独白)


九月。佐伯家の前。

僕は、サエキの部屋の明かりが夜明けまで消えないのを見守っているよ。


サエキ。

君の「分かんねぇ」という言葉は、逃げじゃない。

誰の指示でもなく、自分の足で道を選ぼうとしている人間だけが、口にできる迷いなんだ。


ハミルトン様。

君の相棒は今、君が与えた“答え”に疑問を持ち始めている。

でも、それこそが――

彼が本当の意味で、君と並び立つために必要な痛みなんだろうね。


■ジョージ幕間(観測ログ:35-TOKYO・九月の迷い編)

九月。千代田区。


エドワード(英国・残留組):

ジョージからの「拓海、深い迷いの中にいる」の報告を受け、英国の書斎で静かに言った。

「当然だ。私のいない世界で、正解を見つけられるはずがない」

冷徹な声だった。

だが、その指先はわずかに震えていた。

「……ジョージ。彼に伝えろ」

一拍。

「迷え。だが、立ち止まるな。ゴールには、私が立っている」


ジョージ(日本・特派員):

「いやー、ハミルトン様。そんなこと、今のサエキには言えないよ(笑)」

「サエキ、自分の力で、自分を納得させようとしてる」

「君は本当に、手がかかるけど……応援したくなる男だね」


拓海(自習室):

「……あー、くそ。考えても答えなんて出ねぇよ。バーカ……」

頭をかきむしり、再びペンを握る。

迷いながらでも、手だけは止めなかった。


(追記)

ジョージは、真っ白なノートに


英国

日本


書き、しばらく見つめた末、両方を黒く塗りつぶしたサエキを激写した。


「ハミルトン様。君がどれだけ彼を呼び戻したくても。

彼を一番突き動かしているのは、君の引力じゃなく―

中途半端な自分を、許したくない。

そんな、ちっぽけで、でも捨てられない誇りなんだよなぁ。(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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