第二百九十三話 「始まりとは、終わりが見えた瞬間に急に重くなるものである」という話
エドワード最終学年開始
九月。英国、名門クレストフィールド学院
最終学年の朝。
エドワードは磨き上げられた鏡の前で、完璧に制服を整えていた。
夏までは、
「あっといっちねーん♪」
と機嫌よく浮かれていた少年も、今日からは違う。
廊下を歩けば、後輩たちが道を開ける。
教師たちの視線には、期待と信頼が混ざっていた。
次代を担う者。
この学園を象徴する存在。
誰もが、そう見ている。
一人になった瞬間。
エドワードは小さく呟いた。
「……最終学年、か」
静かな沈黙。
「……タクミ。あと一年ではなく、もう一年だ」
さらに一拍。
「私の忍耐が限界を迎えるまで、あと三百日を切ったぞ」
台無しである。
【次期当主の、あまりに身勝手な決意】
日本から届いたジョージの報告。
サエキも追い込みだよ(笑)
エドワードは分厚い帝王学の教本を閉じ、冷徹に言い放った。
「なら私も遊んではいられん」
「タクミが日本で戦っている間、私は――」
視線を上げる。
「彼を迎え入れるための、最強のハミルトン帝国を完成させなければならない」
真面目な顔をして、考えていることは相変わらず拓海のことだけだった。
エドワード・ハミルトン。
優秀すぎるがゆえに、バカの純度もまた極限に達していた。
■九月:最終学年の魔王
英国、学園の広場。
全生徒の羨望を浴びながら、エドワードはスマホの
”タクミ帰還カウントダウンアプリ”
を秒単位で凝視していた。
真剣な横顔に、後輩たちは感動する。
「さすがハミルトン様……」
「未来を見据えておられる……」
まさかその脳内で、
タクミの部屋の壁紙を、自分の等身大肖像画にするか否か
という国家予算級の会議が開かれているとは、誰も思うまい。
サエキ。
君の主君は、最終学年になってさらにタチが悪くなっている。
■ジョージ幕間(観測ログ:33-JAPAN→UK・最終学年・遠隔狂騒編)
九月。東京、予備校近くの喫茶店。
エドワード(英国・次期当主(笑)):
「……よし。最終学年の特権を使い、図書室に“サエキ拓海・特設棚”を設置する」
「彼が帰還した際、即座に学力差を埋められるようにな」
ジョージ(在日観測員):
「いやー、ハミルトン様。公私混同が過ぎるよ(笑)」
「使用人経由で聞いたけど、先生方、君が熱心に資料を集めてるのを見て、
“なんと勉強熱心な学生だ”って感動してるらしいよ」
「サエキ。君は遠く離れた地で、無意識に一校の校風を歪めているね」
拓海(日本・自習室):
「……ハクションッ!」
「なんか英国の方角から、とんでもねぇバカの波動を感じる……」
戦慄しながら赤本をめくる。
(追記)
「あーあwwww」
東京の夜。
ジョージはスマホ越しに送られてきた画像―
最高級の万年筆で、
タクミ専用・英国生活スケジュール(二十四時間監視付)
を迷いなく執筆するエドワードの姿を見て、吹き出した。
「ハミルトン様。君がどれだけ最終学年の責任を果たしたくても。
君を一番突き動かしているのは、家の名誉じゃなく―
”あと一年で、タクミが私の手の中に落ちる”
という、救いようのない欲望なんだよ。バカ(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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