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幕間 「夏とは、忘れたはずの名前がふと胸に浮かぶ季節である」という話

ジョージ、お前はパパラッチかよ

高坂くんに誘われた、夏休みの旅行。

少し迷ったけれど、来てよかったと思っていた。


明るくて、優しくて。

一緒にいると楽しい人。


無理に笑わせようとせず、

大声で騒ぎもしない。


穏やかで、隣にいて疲れない人。


―そう、彼とは違う。


幼なじみの、少し乱暴で、真っ直ぐで。

思ったことをすぐ口にして、よく人を振り回す、あの人とは。


旅行先の小さなカフェ。


高坂くんが注文に立ち、

菜摘は窓際の席で一人、アイスティーの氷を見つめていた。


カラン。

小さく、氷が鳴る。


ふと視線を上げる。

少し離れた席。

参考書を積み上げ、真剣な顔で勉強している男の人がいた。


汗に濡れた髪。

机に突っ伏しそうな姿勢。

ペンを握る手。


似てもいない。

年齢も違う。


なのに、一瞬だけ重なった。


―拓海。


「なっちゃん?」


呼ばれて、菜摘ははっと顔を上げた。

戻ってきた高坂くんが、不思議そうに笑っている。


「あ、ごめん。ぼーっとしてた」


そう言って笑い返す。

けれど、胸の奥が少しだけざわついていた。


私、今―何を思ったんだろう。


高坂くんが差し出してくれた冷たい飲み物を受け取る。


そのとき、自分の指先が少しだけ震えていることに、

菜摘は気づかないふりをした。


■ジョージの機密ログ(八月:カフェの幻影)


八月。旅行先の静かな午後。


僕は、菜摘ちゃんが窓の外でも、隣の彼でもなく、

存在しない誰かの背中を追っているのを見たよ。


菜摘ちゃん。

君が今手にしているのは、穏やかで確かな幸福だ。


でもね。


一度だけ刻まれた“乱暴な熱”は、どんなに冷たいアイスティーでも冷ませないみたいだね。


ハミルトン様。


君の相棒は今、別の男の隣にいる女の子の心の中にまで、

ノイズとして潜り込んでいるよ。


■ジョージ幕間(観測ログ:31-TRAVEL・氷の音編)


エドワード(英国・残留組):


「当然だ。……彼女には彼女の人生があり、タクミを待つ義務はない」


冷徹に言い放つ。


数秒後。


「だがジョージ。タクミがその事実に一ミリでも表情を変えたら、

そのカフェごと買い取って更地にしろ」


ジョージ(現地特派員):


「いやー、ハミルトン様。菜摘ちゃん、一瞬サエキの名前を呼びそうになってたよ(笑)」


「サエキ、君の存在感はもはや公害レベルだね」


拓海(日本・自習室):


「……っ、クシュン!」


「……誰だよ、俺の噂してんのは……」


鼻をこすりながら、物理の問題へ戻っていく。


(追記)


ジョージは、高坂くんと笑い合う菜摘ちゃんの瞳の奥に、一瞬だけ宿った寂しさを激写した。


「ハミルトン様。君がどれだけ彼を自分のものにしたくても。

彼を一番忘れられなくしているのは、君の独占欲じゃなく―

彼が彼女に与えてしまった、あまりにも眩しすぎる過去なんだよ(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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