第二百九十一話 「七夕とは、会えぬ者に誤った希望を与える行事である」という話
ちょっと見てみたい
七月。英国、ハミルトン本邸。
夏季休暇に入り、実家へ戻っていたエドワードを待っていたのは、
完璧に不愉快な現実だった。
「今年の日本行きは認めん。社交に専念しろ」
父アルバートの一言で、すべては終わった。
エドワードは無言で紅茶を置く。
そして、震える声で呟いた。
「社交など、くそくらえだ」
一拍。
「私は今すぐ、日本の、あの湿った自習室へ行きたいのだ!」
使用人たちは、誰一人として顔を上げなかった。
【英国貴族、軽率な一通を受信する】
その日の午後。
ジョージから能天気なメールが届いた。
添付写真。
笹の葉の前で、真剣な顔をした拓海が短冊を結んでいる。
そこには、力強くこう書かれていた。
絶対合格!
本文。
タナバタって、年に一度、想い合う男女が会える日なんだって!
ロマンチックだね!
数秒の沈黙。
そして、エドワードの目が見開かれた。
「……ピコーン!」
さらに数秒後。
「……閃いたぞ」
使用人たちは、一斉に目を逸らした。
【翌日:災厄、送信される】
翌朝。
ジョージの端末に、エドワードからギガ単位のデータが届いた。
動画三十七本。
画像百二枚。
BGM候補九曲。
構成メモ二十七ページ。
件名:至急。ロマンチック映像制作案件
本文:
ジョージ。
この素材を使い、タクミの心へ直接届く“ロマンチックな動画”を編集しろ。
七夕文化への返礼として、英国側の誠意を示す。
私がベガで、タクミがアルタイルだ。異論は認めん。
ジョージは五秒ほど天井を見つめた。
「……言うんじゃなかった」
一拍。
「あいつ、七夕を“公式メンヘラ記念日”と勘違いしてやがる……」
■ジョージの機密ログ(七月:軽率な文化交流)
七月。ロンドン(通信経由)。
僕はただ、日本の季節イベントを共有しただけなんだ。
それなのにハミルトン様は、七夕を“遠距離恋愛用公式行事”と誤認し、
映像兵器の製造を開始してしまったよ。
サエキ。君はまだ知らない。
君が短冊に書いた“絶対合格”の裏で、英国から“絶対視聴(全五十八分)”の、
愛の重力だけ異常に強い動画が迫っていることを。
ちなみに一分に一回、ハミルトン様のドアップが入る。
流石に多い。
■ジョージ幕間(観測ログ:29-UK・七夕誤訳編)
七月。ハミルトン本邸。
エドワード(制作総指揮・本気):
「導入は静かに始めろ」
「私の愛を、星々の輝きで表現するのだ」
「声は低めに補正しろ」
「背景には、タクミが以前言った
『……うめぇけど、パサパサするな』
という音声をリミックスで使用しろ」
ジョージ(被害者):
「誰向けなんだよ……!」
「そんな動画、嫌がらせ以外の何物でもないよ(笑)」
拓海(日本・予備校):
「……なんか背筋が寒い」
「あいつ、絶対またバカなこと企んでる……」
(追記)
その夜。
ジョージの端末に、追加指示書が届いた。
ラストシーンは、私が天の川を素手で割って、タクミを抱きしめるCGを入れろ。
ジョージは静かに端末を伏せた。
「……MI6、まだいけるかな」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




