表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
323/369

第二百八十八話 「再会とは、片方にとっての苦行で、片方にとっての祭典である」という話

あと1年、まだ1年

六月。英国。

深夜二時。ハミルトン本邸の広大な屋敷で、ただ一部屋だけ灯りがついていた。


エドワードの執務室である。

重厚な机。

整然と並ぶ書類。

古い時計の音。

壁一面の本棚。


その中心で、次期当主たる男は、特注の革張りカレンダーに赤い印をつけながら

機嫌よく鼻歌を歌っていた。


「あっといっちねーん、あっといっちねーん♪」


使用人たちは、誰も近づかなかった。


机上には万年筆、計算用紙、封蝋、

そして“再会準備計画書・第七版”と書かれた分厚いファイル。


エドワードは満足げに頷く。


「よし」


カレンダーを見つめる。


「あと三百六十五日」


紙を一枚めくる。

「誤差を考慮しても、あと八千七百六十時間」


さらにめくる。

秒単位で詰めれば、タクミ再教育プランを一万項目は追加できるな」


誰も頼んでいないのに、彼は非常に楽しそうだった。

窓の外には、静かなウィルトシャーの夜景。

だがエドワードの頭の中では、すでに祝砲が鳴っていた。


「最終学年など通過点に過ぎん」


ペン先で机を叩く。


「その先に、タクミがいる」


少し考える。


「……いや、待て」

新しい紙を取り出す。


【タクミ帰還後・生活改善計画(暫定)】

起床時刻の正常化

栄養状態の是正

発声の粗雑さ修正

姿勢矯正

語彙の品位向上

私への礼節教育(重点)


「完璧だ」


完璧ではなかった。


■ジョージ観測ログ(六月:英国の狂騒曲)

イギリスより通信。

僕は、ハミルトン様が“あと一年”という言葉だけで、

人生最高レベルに機嫌よくなっているのを確認したよ。


サエキ。

君が日本で“俺のばか”と頭を抱えている間に、

君の相棒は、君を迎えるための黄金の檻を鼻歌まじりで改築している。

しかも本人は、それを愛情だと信じて疑っていない。

怖いね(笑)


■ジョージ幕間(観測ログ:25-UK・カウントダウン魔王編)

六月。ハミルトン本邸。


エドワード(主演・小躍り担当):

日記にこう記していた。

この一年は、タクミが私のもとへ帰還するための前奏曲に過ぎない。

さらに追記。

再会とは、宇宙が私に用意した当然の帰結である。


気持ち悪かった。


ジョージ(現地特派員):

「いやー、浮かれすぎてて逆に心配だよ(笑)」

「サエキ、“あと一年”って聞いたら、たぶん

“あと一年もこの生活続くのか”って白目むくと思うけどね」


エドワード:

「彼は喜ぶ」

「なぜそう思えるの?」

「私に会えるからだ」

「怖いね(笑)」


【同時刻・日本】

深夜。予備校自習室。

拓海は単語帳を握ったまま、急に顔を上げた。


「……なんか背筋寒ぃ」


隣で佐藤が問題集を解いている。


「風邪じゃない?」


「違う。もっと嫌なやつだ」


「抽象的だね」


拓海は眉をひそめた。


「あいつ、絶対ろくでもねぇこと考えてる」


「英国の魔王?」


「それ以外いるかよ」


単語帳をめくる手に、妙な力が入る。


「……バカが」


(追記)

ジョージは写真を一枚送ってきた。

そこには、カレンダーの“タクミ帰還予定日”の欄へ、

真剣な顔でバラのシールを貼ろうとしているエドワードの姿があった。

拓海は数秒見つめ、

「……殺す」

とだけ言った。


僕はその返信を見て笑った。


ハミルトン様。

君がどれだけ再会を祝祭にしようとしても、

彼が今いちばん燃やしている感情は、愛じゃない。

“早くこの生活を終わらせて、お前を殴りに行きたい”

という、極めて健康的な殺意なんだよ。

……まあ、それも君は喜びそうだけどね(笑)

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ