幕間 「友人宅とは、気づけば魔王の制作会社になるものである」という話
ジョージ君、特別手当もらってる?
夏休み、最終盤。
あまりにも動画のクオリティが上がりすぎていることに不審を抱いた拓海は、
ついにジョージの借り上げマンションを訪ねた。
「おい、ジョージ。入るぞ」
返事を待たず扉を開ける。
次の瞬間。
拓海の目に飛び込んできたのは、都会の夜景ではなく――
暴力的なまでの”電子機材”の山だった。
【リビング:編集スタジオ兼諜報本部】
中央には大型モニター三台。
唸りを上げる高性能PC。
床に転がるケーブル。
壁一面の外付けSSD。
そのひとつには、堂々と表示されていた。
『エドワード・顔素材・表情集(2TB)』
「……なんだこの地獄」
拓海は一歩引いた。
「……ジョージ、お前何者なんだよ」
ダイニングの奥。
スタバの空容器とコンビニ弁当の残骸に囲まれ、
ジョージが死んだ魚の目で台本を直していた。
「……僕、何しに日本へ来たんだっけ」
ゆっくり顔を上げる。
「ねぇタクミ、教えてよ(笑)」
机上の台本には、赤字でびっしり指示が入っている。
もっと孤独感を出せ
顎の角度3度下げろ
紫雲を増やせ
タクミへの訴求力が弱い
「殺すぞ(笑)」
【寝室:秘密の撮影スタジオ】
さらに奥の部屋。
リングライト。
黒背景布。
高性能マイク。
そして、なぜかスモークマシン。
拓海は絶句した。
「……これ、“あけぼの動画”のセットかよ」
「そうだよ」
ジョージは遠い目で答える。
「深夜二時に連絡来るんだ。
“煙が足りん。もっと哀愁を漂わせろ”って」
「アホか……」
【ベランダ:逃亡先】
ジョージは缶コーヒー片手にベランダへ出た。
夜風に吹かれながら、静かに呟く。
「恋の相談に乗るつもりだったんだけどね」
振り返る。
「気づいたら僕、魔王の制作会社に就職してたよ(笑)」
■ジョージの機密ログ(八月末:ハミルトン・ジャパン・スタジオ)
八月。深夜。
僕は、エドワードの顔の陰影を修正しながら、発狂しかけていたよ。
サエキ。
君が見たあの三時間動画は、この地獄から生まれた執着の結晶なんだ。
機材費はハミルトン家持ち。
電気代も経費。
でも、僕の精神だけは自腹だよ(笑)
■ジョージ幕間(観測ログ:11-TOKYO・制作現場公開編)
エドワード(製作総指揮):
拓海が部屋へ来たと知り、「好機だ。メイキング映像を見せろ」と追加指令。
ジョージ(現場監督):
「いやー、自分の美肌補正まで指定してくるんだよ(笑)」
拓海(視察者):
壁一面のエドワード素材を見て、真顔。
「……お前ら二人とも暇なのか?」
(追記)
ジョージはモニターのアップ映像を指差した。
「この顎ライン、三時間かけて直したんだよ」
拓海はしばらく黙り、そして言った。
「……ジョージ」
「なに?」
「お前、普通に可哀想だな」
ジョージは少し笑った。
「やっと気づいた?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




