第二百七十三話 「生存確認とは、魔王が主演する短編映画になるものである」という話
ちょっと見てみたい気もする
深夜。千代田区の自室。
六法全書に顔を近づけたまま、拓海の意識は限界へ近づいていた。
その時。
スマホが震える。
届いたのは、一件の動画ファイル。
送信者―英国の魔王。
拓海は嫌な予感しかしないまま、再生を押した。
【動画タイトル:緊急声明】
重厚なオーケストラが流れ出す。
暗い部屋。
一脚の椅子。
中央に落ちるスポットライト。
足を組み、指を組み、その上へ顎を乗せたエドワードが、三秒間、無言でレンズを見つめていた。
「……なんだこれ」
拓海が呟く。
ようやくエドワードが口を開く。
「タクミ。私を誰だか覚えているか」
無駄に低い声だった。
続けて、意味のないスローモーション。
「最近、お前の返信は粗雑である」
ズーム。
「これは由々しき事態だ」
さらにズーム。
「私の名はエドワード・ハミルトン」
横顔カット。
「三年前、お前に日本語を教わった男だ」
謎の逆光演出。
「お前は最近、私を世界史上の人物として扱った」
一拍。
「実に遺憾である」
画面暗転。
テロップ。
― END OF MESSAGE ―
拓海は真顔で、返信を一行だけ打った。
『で、誰だっけ?』
数秒後。
通知音。
新着動画。
タイトルは、
『今から覚え直させる』
「勉強の邪魔なんだよ、バカ……」
拓海はそう呟きながら、なぜか削除せず保存した。
手紙は人間が書く。
エドワードは、PVを送りつける。
■ジョージの機密ログ(八月:英国の映像産業)
八月。深夜。
僕は見たよ。
ハミルトン様が総力を挙げて作った映像作品が、サエキに三秒で茶化される瞬間を。
サエキ。君の「誰だっけ」は、ハミルトン様の自尊心へ核直撃だった。
彼は今、第二弾制作に入っている。
ちなみに編集したのは僕だよ(笑)
江の島で遊びすぎた件の埋め合わせさ。
■ジョージ幕間(観測ログ:10-UK・編集地獄編)
エドワード(主演・監督):
自分のアップを0.1秒単位で確認。
「この角度が最も恋しさを伝える」と主張。
ジョージ(編集・謝罪担当):
「いやー、本気すぎるね(笑)」
拓海(被害者):
「容量の無駄なんだよ……」と呟きながら、お気に入り保存済み。
(追記)
ジョージの元へ、新たな企画書が届いた。
次回作
『枕草子 第一段を私が暗誦する三時間特別版』
ジョージは頭を抱えた。
「ハミルトン様。君がどれだけ盛っても――」
シャッター音。
「タクミが覚えてるのは、PVの君じゃない」
少し笑って続ける。
「三年前、下手くそな日本語で『ヨロシク』って言った、あの日の君だよ(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




