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第三話 「頼め」と言った話

コメディ苦手…

昼の中庭。


整えられた芝生。

抑えられた声。

一定の距離。


しれがこの学校の“普通”。


そして、その中で。


「なあ、それ貸してくれよ!」


一人だけ、音量がおかしい。


「え? あ、ああ……」


「サンキュー」


距離が近い。遠慮がない。


”佐伯拓海”


珍しい日本人留学生。

しかも、目立つ。


制服は着崩し、声は大きく、態度はラフ。

東洋人にしては体格もよく、背も高い。


浮いている。

完全に、浮いている。


「タクミ」


空気が変わる。

自然と道が空く。


エドワード・ハミルトン。


次期伯爵。

誰もが距離を取る存在。


「来い」


いつもの命令口調。

一切の迷いなし。


周囲が固まる。


だが。


「やだ」


迷わず即答。


「……何?」


エドの眉が寄る。


「それ、人にもの頼む口調じゃないだろ」


さらっと言う。

遠慮なし。


(言った……)


(ハミルトンに……)


周囲がざわつく。

エドワードは一瞬黙る。

視線が刺さる。


だが拓海は気にしない。


「頼んでいる」


「だから頼み方」


「必要だと言っている」


「だからなんで偉そうなんだよ」


一歩も引かない。


お互い沈黙。


エドは小さく息を吐いた。

ほんのわずかにだけ、口調を落とす。


「……頼む。教えてくれ」


空気が揺れる。


(今の、頼んだ……?)


拓海は肩をすくめる。


「最初からそう言えよな」


それで終わり、引きずらない。

エドワードも何も言わない。

当然のように隣に並ぶ。


その距離が、やけに近い。

周囲の誰よりも。


エドは年齢のわりに小柄だった。

線が細く、整いすぎた顔立ち。

時々、少女のようだと囁かれる。


本人は、それを嫌っている。

だから姿勢を崩さない。

隙を見せない。


だが、隣の男は気にしない。


一切。


「で?」


拓海が言う。


「何だよ」


「昨日の続きだ」


「日本語か?」


「そうだ」


「えらい熱心だな」


「必要だ」


当然のように言う。

拓海は少しだけ笑う。


「お前さ」


「何だ?」


「なんでそこまで読めるようになりたいんだよ」


少しの間。

エドは前を向いたまま、


「読めないからだ」


それだけ言う。

シンプルすぎる答え。


でも。

妙に納得できる。


「……そっか」


拓海はそれ以上聞かない。

エドも、それ以上言わない。

少しだけ沈黙が落ちる。


「タクミ」


「ん?」


「“よろしく”は正しく使えているか」


「いきなりどうした」


「確認だ」


真顔。


「……まあ、使えてんじゃね?」


「そうか」


わずかに頷く。


「では」


姿勢を正して、


「ヨロシク」


「今じゃねぇ」


即ツッコミ。


周囲がまたざわつく。


(また何かやってる……)


エドは少しだけ考えて、


「難しいな」


「だろ」


「だが」


ほんの少しだけ、


口元が緩む。


「面白い」


その顔は、年相応に見えた。

ほんの一瞬だけ。


拓海はそれを見て、

小さく笑う。


「めんどくせぇやつ」


そう言いながら、


隣を歩く。

結局、離れない。


周囲は距離を取る。

誰も近づかない。


なのに、その中心にいる二人の距離だけが、

やけに近かった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。

いいねや感想など、いつも励みになっています。


この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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