表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/403

幕間 「梅雨とは、英国紳士の理性を湿度で溶かす季節である」という話

ジョージ君日本到着

六月、中旬。羽田空港。


自動ドアが開いた瞬間、ジョージを迎え撃ったのは、英国では決して味わえない重たい空気だった。


肌にまとわりつく湿度。

曇天の低い空。

雨粒を含んだ生ぬるい風。


「……湿ってるね、日本」


ジョージは首から下げた新品のライカ M11を軽く撫でる。


「防湿設定、最大にしておいて正解だったよ(笑)」


タクシーに乗り込み、雨の首都高を走る。


窓の外、灰色に煙る東京。

濡れた高架道路。

滲むテールランプ。

ビル群は雨の膜越しにぼやけ、どこかメランコリックな美しさを帯びていた。


ジョージは頬杖をつき、流れていく景色を眺める。


「悪くないね。歓迎の演出としては」


千代田区、某所。


ハミルトン家が“とりあえず押さえた”高級マンションの前で、タクシーが止まる。


エントランスには磨き上げられた石床。

静かすぎるロビー。

妙に感じのいい管理人。


「ジョージ様ですね」


差し出された封筒を受け取り、中を開く。


鍵が一本。

そして、見慣れた几帳面すぎる筆跡のメモ。


『ジョージへ。即稼働せよ。

一秒の遅滞も認めん。』


「あの男、本当に友達いないね(笑)」


ジョージは肩をすくめる。


「頼る相手が、僕とカメラだけなんてさ」


部屋に入った瞬間、彼は足を止めた。


そこは既に、“予約済みの監視本部”だった。


リビングのテーブルに整然と並ぶ資料群。


超高性能双眼鏡

千代田区詳細地図(赤線多数)

コンビニ配置一覧

日本国内マヨネーズ比較表

近隣公園ベンチ視認角度一覧

謎の納豆ブランド評価メモ


「……気持ち悪いね(笑)」


一拍置いて、訂正する。


「いや、かなり気持ち悪い」


ジョージは鞄をソファへ放り投げ、窓辺へ歩いた。


雨に濡れる番町の街並み。

静かな道路。

傘の列。

灰色の空。


この街のどこかに、あの野生児が帰ってくる。


何も知らずに。

のんきに。

多分、納豆でも混ぜながら。


「……でも少し、楽しみなんだよね」


ライカを構える。


ファインダー越しの東京は、少しだけ面白そうに見えた。


青春の乾いた朝焼けは、英国に置いてきた。

物語は今、雨の東京で、少し粘ついた騒動と共に再開する。


■ジョージの機密ログ(六月:東京再起動)


六月。雨の千代田区。

僕は湿度に文句を言いながら、三分後には双眼鏡のピント調整を始めた。


サエキ。

君は今ごろ「ジョージの野郎、家族旅行で遊んでやがる」とでも思っているんだろうね。


その間に、君の生活圏はだいたい把握されたよ。


ハミルトン様。

君が送ったのはカメラマンじゃない。

自分の執着を、東京へ物理配置し直しただけなんだね。


……重いよ(笑)。


■ジョージ幕間(観測ログ:00-BAKA・東京潜伏編)


六月。マンション一室。


エドワード(総司令官):

到着確認後、一分ごとの進捗報告を要求。文章量まで指定してきた。暇なのかもしれない。


ジョージ(先遣観測員):

「いやー、マヨネーズ資料が論文レベルだよ(笑)。

隣室まで確保しようとしてた形跡があるね。怖いね」


拓海ターゲット

まだ英国で最後の荷造り中。自分のプライバシーが

一足先に日本到着しているとは夢にも思っていない。


(追記)


ジョージは雨の窓ガラスに映る自分へ向け、シャッターを切った。


「ターゲット帰国まで、あと数日」


そして笑う。


「ハミルトン様。君が一番見たいのは、彼が玄関を開けた瞬間の、

あの間抜けな驚き顔なんだろうね(笑)」


スマホが震える。


『ジョージ。初動はどうした』


「……今、コンビニで傘を買うところから始めてるよwwwww」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ