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第二百五十九話 「友情とは、独占できないから厄介なのである」という話

やっと寄宿学校編の終わりが見えて・・・

五月、下旬。

試験も終わり、寮には積み上がった段ボールと、言葉になりきらない別れの気配が満ちていた。


廊下では誰かが進学先を叫び、階段では誰かが住所交換をしている。

中庭では記念写真の声が飛び、談話室では寄せ書き帳が回されていた。


学園全体が、騒がしく未来へ向かっていた。


その中心で―


「サエキ先輩! 本当に帰っちゃうんですか!?」


「嫌です! 先輩いないとラグビー部が野蛮になります!」


「もともと野蛮だろバカ!」


拓海は後輩たちに囲まれ、頭を抱えていた。


制服の袖を掴む者。

寄せ書きを押しつける者。

泣きそうな顔でボールを差し出す者。


「先輩、これにサインください!」


「何でラグビーボールにだよ!」


「家宝にします!」


「重てぇ家宝だな!!」


笑い声が起こる。


拓海は照れ隠しみたいに、近くの後輩の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。


「うるせぇ、泣くなバカ。レギュラー争いサボったら、日本から呪い送るからな」


「愛が重いです先輩!」


「サエキ、日本帰ったら連絡しろよ!」


同級生たちが肩を組んでくる。


「東京のうまい店、予約しとけ!」


「何で俺が接待係なんだよ。お前らも出世しろ。ハミルトン家に喧嘩売れるくらいにな」


「無茶言うな!」


一足先に家業を継ぐため帰国する友人とは、拳を軽くぶつけ合った。


「逃げんなよ、跡継ぎ」


「お前こそ現実から逃げるな、サエキ」


「うるせぇ」


その少し離れた場所で。

エドワードは一人、静かにその光景を見つめていた。


翡翠色の瞳に宿るのは、見慣れぬ困惑だった。


「……知らなかった」


誰にも聞こえぬ声で、呟く。


「タクミ。お前は、私の知らぬ場所でも……これほどまでに愛されていたのか」


エドワードにとって拓海は、

自分だけが理解し、自分だけが振り回され、自分だけが価値を知る相棒だった。


少なくとも、そう思っていた。


だが現実は違う。


学園中のあちこちに、それぞれの“サエキ拓海”がいた。


笑わせてもらった者。

助けられた者。

喧嘩した者。

背中を押された者。


自分だけのものなど、最初から一つもなかった。


「……何だその顔」


人だかりを抜けて、拓海が目の前に立つ。


「葬式帰りみてぇなツラしてんな、バカ」


「していない」


「してる」


拓海は鼻で笑った。


「安心しろ」


「何をだ」


「お前が一番面倒で、一番うるさくて、一番手ぇかかった」


「褒めているのか?」


「最大級にな」


少し間を置いて、拓海は肩をすくめる。


「お前の代わりなんて、どこにもいねぇよ。バーカ」


エドワードはしばらく黙っていたが、やがて静かに顎を上げた。


「……当然だ」


「お?」


「面倒さにおいて、私を越える存在など、この宇宙に存在せん」


「そこ誇るなバカ!!」


拓海の笑い声が、五月の空に抜けていった。


■ジョージの機密ログ(五月末:分散する光)


五月。校庭の片隅。


僕は見ていたよ。


ハミルトン様が、サエキを囲む人だかりを見ながら、敗北と誇りを同時に飲み込んでいるのを。


サエキ。

君という光は、ハミルトン家の暗い廊下だけじゃなく、この学園の隅々まで届いていたんだね。


君がいなくなった後、ここはしばらく深刻な光不足になるだろう。


ハミルトン様。

君は独占したかったんだろうけど。


みんなに愛される彼を、“一番面倒な相棒”として最後に独り占めできたのは、君だけの特権なんだよ。


■ジョージ幕間(観測ログ:00-BAKA・独占欲崩壊編)


五月。談話室。


エドワード(嫉妬中):

寄せ書き帳を確認し、「なぜ私の文章よりラグビー部員の“バカ”の文字が大きいのだ」

と真剣に分析開始。


ジョージ(観測者):

「いやー、嫉妬してるね(笑)。ハミルトン様、自分の知らないサエキとの思い出話が

学園中から出てきて、全員の記憶消去を検討してたよ」


拓海(人気者):

「お前ら暑苦しいんだよ!」と文句を言いながら、一人一人ちゃんと相手している。

自分がどれだけ愛されていたか、ようやく少し気づき始めている顔。


(追記)


ジョージは、エドワードに腕を掴まれた拓海が、


「離せ、暑いっつってんだろ!」


と暴れているのを激写した。


「ハミルトン様。君がどれだけ独占を望んでも。彼がみんなに愛されている事実こそ、

君が選んだ男の一番の証明なんだよね(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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