第二百五十二話 「試験とは、理屈屋が野生児を合法的に監禁できる祭典である」という話
試験が終わった!後は卒業までまっしぐら!
クレストフィールド学院
四月。卒業試験を目前に控えた寮は、本来なら静かな緊張に包まれている――はずだった。
現実には、エドワード・ハミルトンによる
「サエキ拓海専用・再教育センター」
へと変貌していた。
【AM 5:00:強制起動】
「起きろタクミ。三秒以内に過去問を開け。一秒遅れるごとに、
お前の日本帰国予定を一日ずつ予約削除する」
「人権は!? 俺の人権はどこに予約されてんだよバカ!!」
「安心しろ。私の管理下にある」
「一番ダメな場所だわ!!」
【PM 12:00:無味無臭の補給】
「これが本日の昼食、ハミルトン特製『脳細胞活性化ペースト』だ。味覚は雑音。黙って飲め」
「味が死んでる!!
頼む、せめて塩! いやマヨネーズだけでも!!」
「却下だ。お前の舌に娯楽は不要」
「暴君か!!」
【PM 11:00:精神の摩耗】
「タクミ。復習を始める。今日は三年前のお前の失言をすべて数式化し、因果関係を――」
「お前が試験受けろバカ!!
その異常な記憶力が一番怖ぇんだよ!!」
「怖がるな。学べ」
「学びたくねぇよ!!」
深夜。
ジョージが暗視カメラ越しにその惨状を観測し、肩を震わせていた。
「いやー、二人とも壊れてきたね(笑)。
ハミルトン様、サエキの耳元で『ピタゴラスの定理』を子守唄みたいに囁いてるよ」
そこへ、廊下を通りかかった教師が、重たい足音とともに冷徹な一言を落とした。
「その机で騒げるのも、あと少しだ」
二人の動きが、同時に止まる。
「サエキ。試験の解答用紙と一緒に、帰国後の行動計画書も提出しろ。
日本でニートになる気なら、今ここで矯正する」
「余計なお世話だバカ!!」
「先生、それは名案です」
「乗るなバカ!!」
談話室に、鉛筆の走る音だけが残った。
あと何度、この机越しに「バカ」と言い合えるのだろう。
そう思った瞬間、いつもの部屋が少しだけ広く見えた。
■試験結果返却日
数週間後。
掲示板の前で、エドワードは石像のように固まっていた。
「……タクミ。なぜ平均点を大きく上回っている」
「ん?」
「私の補習中、お前は居眠りを一万回はしていたはずだ」
拓海は結果表を見上げ、鼻で笑った。
「なんだ、できるじゃねぇか。やればできる男だったんだな、俺」
「私の努力は……?」
エドワードの膝がゆっくり崩れ落ちる。
「私の監禁(教育)生活は……お前の才能に敗北したというのか……」
「お前の監禁から逃げたくて、脳が必死に内容詰め込んだんだよ、バーカ!!」
■ジョージの機密ログ(四月:監禁の終焉)
四月。試験終了。
僕は見ていたよ。ハミルトン様が、“もう教える理由がない”という現実に、深い絶望を覚えているのを。
サエキ。君が良い点を取ったのは、君自身の力だ。
でもハミルトン様にとっては、「君を隣に座らせる口実」が一つ消えただけなんだね。
教師。君が求めた行動計画書。
それはサエキを追い出すためじゃない。向こうでも一人で生きていけるか、
最後に確かめたかったんだろう。
■ジョージ幕間(観測ログ:00-BAKA・脱獄成功編)
四月。掲示板前。
エドワード(看守失格):
サエキの好成績を「ハミルトン家の完全敗北」と定義。現在、
学力をわざと下げるための“逆教育プラン”を構築中。
拓海(脱獄囚):
「これで自由だ!」と歓喜。なお提出済みの行動計画書に、エドワードがこっそり
「ハミルトン家への永住希望」と書き足したことにはまだ気づいていない。
ジョージ(情報分析官):
「いやー、皮肉だね(笑)。ハミルトン様、サエキの答案用紙を見て、『この正解の数だけ別れが近づく』って、急に詩人になってたよ」
(追記)
「あーあ(笑)」
ジョージは、エドワードに
「タクミ。再試験(追試)を予約しろ」
と縋られ、
「合格したんだよ、バカ!!」
と本気で振り払っているサエキを激写した。
「ハミルトン様。君がどれだけ彼を解答用紙に縛りつけても。
君が一番採点したいのは、試験が終わった後の彼の笑顔なんだろうね(笑)」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




